中国側にとって、バイデン大統領の続投よりトランプ政権再登場が好ましいとされる理由は、台湾問題に限ったことではない。
トランプ氏の米国最優先主義の徹底により対欧州、アジア同盟関係軽視がより明確となり、西側世界全体に動揺を来たせば、その間隙をぬって中国がグローバルに対外攻勢を強められるとの打算も指摘されている。
経済面でも中国有利か
国際政治、安全保障面だけでなく、経済・貿易面でもトランプ体制の方が中国にとって有利になるとの見方もある。
その具体的ケースとして、米外交誌「Foreign Policy」は最近号の「なぜ中国はトランプに期待するか」と題する論考の中で、以下の点を挙げている:
1. トランプ氏は次期大統領就任後、中国からの輸入品に60%関税を課すと公言しているが、もしこれが実施された場合、中国側にとって一時的に痛手となるが、それ以上に、同調を求められる欧州諸国にも影響が波及し、米欧貿易関係全体がズタズタになる。
2. ウクライナ侵攻以来、バイデン政権が打ち出してきた一連の対ロシア制裁措置について、プーチン大統領と近い関係にあるトランプ氏が大統領に返り咲いた場合、早晩解除の可能性が高い。その結果、制裁下で通常の対露通商を続ければ米国の報復を恐れ自粛してきた多くの中国企業が息を吹き返し、中国共産党を喜ばせることになる。
3. 中国はかねてから、世界貿易におけるドル支配体制や米欧中心の国際通商決済制度に不満を抱き、中国元も加わった多元的システムの構築を模索してきた。トランプ政権となれば、米国が打ち出す制裁のたびごとに貿易・金融上の混乱の巻き添えにさらされてきた多くの国が中国主導の代替システムへの期待を高めることになる。
4. バイデン政権はこれまで半導体、AIなどの先端技術の対中輸出規制措置をとってきたが、太陽光発電などのクリーン・テクノロジー関連は例外扱いとしてきた。次期政権に備えたトランプ氏側近グループはさらにこれらの規制リストの中に再生エネルギー、電池テクノロジーなども加える意向と伝えられる。しかし、これはすでに太陽光パネル、風力タービン、電気自動車(EV)などで世界のリーダーとなっている中国にとって、なんの痛痒も感じないどころか、規制拡大によって米国企業が世界市場から手を引くのと引き換えに、中国がクリーン技術関連でも世界基準として取って代わる好機となる。
中国で飛び交う「バイデンの方がまだいい」議論
他方、上記のような見方とは裏腹に、トランプ氏の再登場は必ずしも中国にとって歓迎材料とはならず、かえってバイデン政権の継続のほうが、より望ましいとする指摘もある。
とくにバイデン再選支持論は、中国人専門家の間で少なくない。
その背景として、①トランプ氏は大統領在任中、対中製品関税を課したため、中国側も報復関税措置を打ち出し、両国貿易戦争に発展、今日までその悪影響が続いている、②中国で最初に新型コロナ感染発生が伝えられた2020年以来、トランプ大統領はコロナ対策失政で招いた米国民の不満の矛先をかわすため、対中批判をエスカレートさせ、両国間が極度に悪化した、③20年11月の米大統領選の際、中国側は「予測不能のトランプ」よりバイデン大統領の当選に期待しているとの米情報機関による分析結果が存在した――などの点が挙げられている。
さらに、AP通信は「中国はどちらかと言えば、トランプ再登場によるヒステリックな政策と米中関係の劇的変化ではなく、バイデン再選による安定的米中関係継続に期待している」(Shi Yinhong中国人民大学国際関係学部教授)、「中国共産党は、バイデン政権による西側同盟関係強化政策より、グローバリゼーションそのものに反対するトランプの方をはるかに憂慮している。どちらが望ましいというわけではなく、とにかく中国としては『改革開放』政策の継続とより一層の発展がカギとなっている」(Wang Yiwei同大学国際問題研究所長)などの発言も引用している。