中国では、バイデン大統領とトランプ候補を比較した場合、「どちらが好ましいか」ではなく、「どちらが“害が少ない相手”(lesser of two evils)か」の問題と受け止める専門家が多いという。
確かに、習近平体制にとって今最大の課題は、不動産不況などに象徴される難題を抱える経済の立て直しであり、そのためにも、内外含めたこれ以上の経済・貿易の混乱は何としても避けなければならない状況下にある。
この点、トランプ前大統領は在任中、対中関税など行き当たりばったりの政策が目立ったほか、中国も深いかかわりのある世界貿易の混乱を引き起こす場面が少なくなかった。
中国が懸念する「発展の阻害」
さらに、次期トランプ政権で重要な役割を担うとみられる側近たちの間で、「対中強硬論」が多いことも、中国にとって懸念材料となっている。
とくに、中国側が警戒するのが、かつて米側通商代表(17~21年)を務め、今日もトランプ氏の対中政策指南役でもあるロバート・ライトハイザー氏の存在だ。
ライトハイザー氏は、厳格な「公正貿易推進論者」として知られ、在任中の4年間を通じ、多くの中国企業がかつての3%から21%にまで引き上げられた米国の対中関税推進の中心人物であり、中国側にとって最も手ごわい相手とみられてきた。
そして同氏は最近、中国に最恵国待遇を付与する「対中恒久的正常貿易関係」(PNTR)合意(2000年締結)について、破棄の意向を明らかにしており、もしそうなった場合、今後、際限なく高関税が中国製品に課せられる道を開くことになりかねない。
政治・安全保障面でも、トランプ氏の「米国第一主義」がもたらす世界秩序の無用な混乱が必ずしも中国を利するとは限らない。
中国は自由主義諸国とは一線を画する共産主義体制とはいえ、今や世界と深いつながりを持つ世界第2位の大国であり、両陣営での対立が激化することは、中国のさらなる発展の阻害要因ともなりうる。
この点から言えば、かりにトランプ氏が返り咲きを果たしたからと言って、習近平体制がただちに台湾侵攻の挙に出るかどうかさえも、単純に導きだせる結論とはなりえない、との議論も成り立つ。
なぜなら、侵攻に踏み切った場合、米国のみならず、アジア諸国、北大西洋条約機構(NATO)をも巻き込んだ世界危機に拡大する重大な危険をはらんでいるからだ。
こうしたさまざまな事情を総合的に勘案した場合、中国指導部は結局、バイデン、トランプ両氏のいずれが次期米大統領に選ばれるにせよ、長期的戦略的観点から、世界情勢の無用な混乱を回避する政策遂行を米側に最も期待していることだけは間違いない。