2024年4月30日(火)

BBC News

2024年4月15日

ジェレミー・ボウエン BBC国際編集長

イスラエルの戦時内閣は、イランに対する次の一手について、おなじみの言い方で説明した。「我々が選ぶ時期に、我々が選ぶ方法」で反応するというものだった。

イスラム組織ハマスによる昨年10月7日のイスラエル奇襲を受けて、組閣された戦時内閣に参加した野党代表のベニー・ガンツ氏は、イスラエルに協力する西側諸国とイスラエルがいかに一致団結してまとまっているかを強調した。

「イスラエル対イランとはすなわち、世界対イランだ。それが今の結果だ。この戦略的成果を我々はてこにして、イスラエルの安全保障のために活用しなくてはならない」

ガンツ氏の言葉は、イランの標的をまた攻撃する可能性を排除していない。あるいは、イラン国内に初めて公然と攻撃する可能性も、排除していない(イスラエルはすでにイランの核開発計画を、サイバー攻撃や当局者・科学者の暗殺などを通じて、繰り返し攻撃している)。

しかし、ジョー・バイデン米大統領は西側の最も裕福な主要7カ国(G7)に、会合に参加するよう求め、外交的な対応を協議するとした。その外交的な対応が実施されるだけの猶予はあるのかもしれない。

ハマスのイスラエル攻撃を機に始まった戦争は、2週間前に一気に激化した。シリア・ダマスカスのイラン公館をイスラエルが4月1日に攻撃したためだ。この空襲でイランの軍幹部とその副官、そして補佐官たちが死亡した。

この攻撃は、事前にアメリカと調整したものではなかった。イスラエルは、イラン革命防衛隊の幹部を殺害する機会を得て、リスクをとるに足る好機だと判断したのだろう。

イスラエルは表向き、こう主張している。在外公館の敷地内に複数の軍幹部がいたため、その建物は正当な標的となったと。あまり説得力のない言い分だ。それよりも、イランがこの空襲を自国領への攻撃と受け止めたことの方が大事だった。

イランが何かしら反撃するだろうと、すぐに予想できた。イランの反応は、それとなく察しろというようなおぼつかないものではなく、最高指導者アリ・ハメネイ師からの歴然とした声明という形をとったからだ。

イスラエルとアメリカと他の同盟・協力諸国が、準備する時間は十分にあった。バイデン大統領は週末を地元デラウェア州で過ごしていたが、ホワイトハウスに戻るだけの時間があった。イランは攻撃をいきなり超音速の弾道ミサイルで開始するのではなく、飛行速度の遅いドローンから始めた。発射されたドローンが目標に接近するまで、2時間もの間、その航跡はレーダーに捕捉されていた。

イスラエルにとって最大の仇敵からの反撃が、これほどの規模になるなど、多くのアナリストにとって予想外だった。それだけにイスラエルでは多くが、自分たちの国が何かしら反応するはずだと思っている。

イランは初めて、自国領からイスラエルに武器を撃ち込んだ。ドローン、巡航ミサイル、弾道ミサイルが計約300ほどだ。そのほとんどは、イスラエル独自の強力な防空システムと、それを支援するアメリカとイギリスとヨルダンの協力によって、撃墜された。

14日の夜、アメリカを筆頭に協力国各国はイスラエルを大いに支援した。そしてバイデン大統領はネタニヤフ首相に、次のことをはっきり伝えた。イランの攻撃は阻止した。イスラエルは勝った。なので、事態をこれ以上悪化させるな。イラン領内に軍事攻撃を加えたりするな――と。

西側諸国の外交幹部は私に、これ以上の事態悪化を防ぐため、これ以上はならぬと線を引くことが今では何より大事だと話した。

イランも、そうした線引きを望んでいる様子だ。イスラエルがダマスカスに仕掛けた攻撃には、今回の攻撃をもって対応したと、イラン側は述べている。もしまた攻撃されれば、事態は悪化の一途をたどると。イスラエルによる在ダマスカスの公館攻撃で始まった2週間の危機と脅しの連鎖を、イランは鎮静化させたい様子だ。

イランは今回の攻撃で、実はもっとイスラエルに被害を加えたかったのかもしれない。あるいは、イスラエルに反撃の理由をあまり与えないのが狙いだったのかもしれない。

イランは、自分たちは敵の攻撃を抑止できるという感覚を、イスラエルが在ダマスカスの公館攻撃で失ったため、その感覚を復活させたかった。しかし、発射した武器のほとんどすべてが、イスラエルとその同盟諸国に途中で迎撃されてしまったため、抑止力の回復は難しい。

イランが今回仕掛けたのは、イスラエルに対する全面攻撃ではなかった。イランはもう何年も、ロケット砲やミサイルの備蓄を積み上げている。もっと大量の武器を使うこともできた。レバノンの武装勢力ヒズボラは全面攻撃に参加しただろうが、今回はそうしなかった。ヒズボラはレバノンの軍事勢力であると同時に、政治運動でもある。そして、大量のロケット砲とミサイルを持つヒズボラは、イランにとって最大の協力者だ。

イスラエルのネタニヤフ首相は、イランの攻撃によってガザ地区の状況が世界のニュースのトップから外れたことをある程度、歓迎するかもしれない。ガザで人道的危機が続き、人質解放とハマス壊滅という戦争目的をイスラエルがいまだ実現できずにいることから、世間の注目がしばし外れたことで、ネタニヤフ氏は一息をつく猶予を一時でも得た。

数日前まで世界は、イスラエルのガザ封鎖が引き起こす飢饉(ききん)について、バイデン氏とネタニヤフ氏が対立していることに注目していた。しかし今では、両者の連帯が話題になっている。

ネタニヤフ氏は今や、自分は力強く合理的な指導者で、国民を守っているのだと打ち出すことができる。実際にはイスラエル国内で多くの政敵が、首相の失脚を望んでいるのだが。ネタニヤフ氏の政敵たちは、昨年10月7日以前に彼が続けた無謀で安全とは程遠い政策の数々のせいで、イスラエルは弱いとハマスが信じるに至ったのだと批判している。

しかし、アメリカは依然として、全面的な中東戦争に至る状況悪化を阻止するため、何か方法を見つけようとしている。それは変わっていない。確かに、越えてはならない一線は越えられてしまった。イスラエルが在外公館に攻撃した。イランはイスラエルに直接攻撃した。イスラエルの右派からは直ちに、報復するよう求める声が上がった。その要求は止まらないはずだ。

G7の外交官たちは、中東地域がさらに広範囲に被害をもたらす紛争に突入しないように取り組まなくてはならない。ハマスがイスラエルを攻撃してからというものこの半年間、地域戦争への傾斜は緩やかだが、確実に一つの方向へ、つまり大惨事へと向かっている。

反撃するなというバイデン大統領の助言を、もしイスラエルが聞き入れるなら、中東はしばし一息をつくことができるかもしれない。この危険な事態がこれで終わったかどうかは、まったく定かではない。

(英語記事 Bowen: As Israel debates Iran attack response, can US and allies stop slide into all-out war?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c4n13pxjmv9o


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