現場からの証言によると、戦場に引っ張り出されてきたアンティーク戦車には不具合が目立ち、役に立たないことも多いという。しかし、今のロシアは質よりも量を重視している。また、旧式の個体は主力戦車というよりも、歩兵戦闘車的に使われることが多いようだ。
廃戦車が大量にストックされているロシアとはいえ、年式の比較的新しいもの、状態の良いものには限りがある。1970年代のT-72はまだいいが、ロシア軍は22年末には60年代のT-62をウクライナ戦線に投入し始め、さらに23年夏以降は50年代のT-55すらも戦場に引っ張り出しているという。
ロシア軍はウクライナでの戦闘で、23年末までに2500両以上の戦車を失ったと言われ、その後も損失は続いている。ゾンビ戦車の投入作戦により、「量」の面ではある程度補充できても、「質」の面では劣化が進んで行く公算が大きい。
新型戦車アルマータに見る内情
ロシアという国の特徴として、国家主導で高度な製品を開発・設計することはできても、それを安定した品質と許容可能なコストで量産することが苦手という傾向がある。
戦車もその例に漏れない。最新鋭戦車T-14アルマータが、15年の戦勝記念日軍事パレードでお披露目され、20年までに2300両を生産するという構想が示された。しかし、その生産は軌道に乗っていない。ちなみに、15年の軍事パレードのリハーサルでアルマータがエンジントラブルで停止してしまい、他の戦車に牽引され撤収する羽目になって、関係者が顔を青くしたのは、有名な話だ。
ウラル工場では、アルマータを組み立てる最新の作業場を建設するはずだったものの、まったく進捗していない。購入した設備や高価な輸入機械は、何年も木箱の中で死蔵されている。
アルマータがより重く大型のモデルにもかかわらず、それに対応した設備はない。結局、アルマータはウラル工場の既存の建屋で、T-90やT-72と同じラインで、ごく少量が試験的に組み立てられただけのようである。現時点で、アルマータはウクライナ戦線には一切投入されていない。
ウクライナの「ディフェンス・エクスプレス」というメディアによると、23年には29両のアルマータが生産されるはずであったが、結果はゼロであったという。24年には同じく29両の生産を計画しているが、ウラル工場がT-90MやT-72B3Mの量産を求められている中で、実現するかは不透明だ。
ロシアでは、「ロステク」という国営コングロマリットが、ウラル工場を含む軍需工場を束ねている。そのロステクのチェメゾフ総裁は先日、「言うまでもなくアルマータは、既存の戦車よりもはるかに性能が高い。だが、価格が高すぎるので、ロシア軍が使うことはあるまい。お馴染みのT-90を買う方が簡単である」と、何やらサジを投げたような発言をした。
かくして、ロシア軍需産業の粋を集めた最新鋭戦車アルマータは、実戦用ではなく、軍事パレード用の出し物に留まっているわけである。幸い(というか何と言うか)、16年以降の軍事パレードではエンジントラブルは起きていないようである。