2024年12月27日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年5月2日

大統領による拒否権の可能性

 4月10日の総選挙では、300議席(一院制)のうち、野党民主党は系列政党を含め175議席(改選前156議席)と議席を増やし、与党国民の力は108議席(改選前114議席)と議席を減らした。文在寅政権の元法相曺国が結成した祖国革新党は、初めて12議席を獲得し、第三党に進出した。残る5議席を他の新党が占めた。保守政権党と議会野党の捻じれは一層厳しいものになった。

 上記の社説は、議会支配を強めた野党民主党に対し、「責任ある統治」を求める。4月11日付の中央日報の社説も、野党に対し、「これからは国政に責任を負う姿を見せるべき」と要求している。多くの人は再び激しくなる与野党対決、議会・政府対立を懸念している。

 韓国では、今回の選挙を与党の「大敗」、野党の「圧勝」、「与小野大」と呼んでいる。一時は、与野党接戦とみられていたので、尹錫悦政権や与党の衝撃は大きい。

 政権党にとり中間選挙は常に厳しいが、与党はもう少し善戦するのではないかと思われた。今後、人事の刷新が必要との見方がある。与党内から大統領批判が出て来る可能性もある。任期の折り返し点にいる尹錫悦大統領には、政権の立て直しが急務である。 

 新議会と政府の対立は一層激しくなるだろう。政権側の人事案や法案(労働、年金や教育等)はなかなか通らなくなり、議会は今まで以上に野党寄りの法案や事案(特別検察官設置等)を強行する可能性がある。要すれば、大統領は法案に拒否権を行使するだろう。

 そして、政治は段々と2027年の大統領選挙に向けて動く。大統領・政権はレイムダック化する。

 他方、野党民主党は、今回の勝利により復活し、代表の李在明は種々の不動産絡みの汚職捜査を受けているにも拘わらず、ほぼ完全に立場を回復し、次の野党大統領候補としての地歩を固めたと言える。民主党は、「李在明党に変貌した」とみられている。政治は、闘争型政治や復讐の政治、ポピュリズムの政治等、懸念される。

 過去2年改善の兆しを見せている対日関係は、基本的には変わらない。それが大方の見方だ。対日関係は目立った選挙争点にはならなかった。対日関係改善の考えは、必然の事として広く理解されるようになっているようにも思える。

 しかし環境は厳しくなるだろう。特に立法が必要となるかもしれない徴用工問題等については注意を要する。日本としては、尹政権との連携を今まで通り維持、強化していくことが重要である。


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