なかでも、最も多く読み返している本が、精神科医であるヴィクトール・E・フランクルが第二次世界大戦中にナチスの強制収容所での経験を綴った『夜と霧』(みすず書房)である。
「中学生の頃に読んで、大きな衝撃を受けました。強制収容所で何もかもを奪われたとしても、『あたえられた環境でいかに振る舞うか』という人間としての最後の自由だけは、決して奪えない。そのことを教えてくれました」
求められた「らしさ」
でも、自分らしさは多面的
宇垣は子どもの頃から、納得のいかないことがあると、理路整然、臆することなく自分の考えを伝える性格だったという。両親からも、「あなたは苛烈過ぎる」と言われるほどだった、と彼女は振り返る。
「らしさ」を押し付けられることなく、のびのびと育ってきた宇垣だったが、大きな壁に直面する。2014年、TBSにアナウンサーとして入社したばかりの時のことだ。
「周囲の求める『アナウンサーらしさ』というものに必死に自分を寄せようとして、それを演じれば演じるほど、自分で自分のことが分からなくなっていきました」
SNS上でも、誹謗中傷が相次ぎ、「入社してから1、2年はずっとつらかった」と宇垣は振り返る。宇垣の人格を否定する書き込みもあり、その悪意にげんなりすることも多かった。
「『私の何を知っているの?』と感じたりもしました。書き込む人は軽い気持ちかもしれませんが、それによって傷つく人がいる。それでも傷ついた人はそうした人たちを許し続けなければならないし、傷つけた人はその人に許され続けなければならない。双方にとって許し許され続けるということはとても覚悟のいることだと思います。でも、そうした覚悟が無い人ほど、安易に人を傷つけてしまうんですよね」
だが、どれだけ落ち込んでも、「あなたは最高」と言ってくれる友人や家族がいたことが支えになった。
「自分らしさは多面的なもの。決して一つではない。私が今見せている『私らしさ』と、学生時代の友人の前で見せる姿、妹の前で見せる姿は全部違います。だから、テレビに映る私の姿も、私の全てではありません。テレビとは違う『私らしさ』を知ってくれている友達や家族の存在が、当時の私を支えてくれていたと感じています」
そして、「アナウンサーらしさ」を求められるなか、宇垣はある考えに行き着いた。
「大事なことは、『自分が自分の味方になってあげる』ということだと分かりました。もちろん謙虚に反省することは大切ですが、必要以上に自分を卑下しなくてもいいのかな、と。『自分』とだけは絶対に別れることができないので、それなら『自分を愛してやるしかない』。そう思うようになった途端、気持ちが楽になりました」
※こちらの記事は「Wedge」2024年6月号の一部です。