2024年11月22日(金)

Wedge SPECIAL REPORT

2024年6月17日

何が起こるか分からない世界
困難極める需要予測

 「ある日突然にリスクが顕在化することがあるのが調達の難しさだ」と語るのは約20年にわたり資源調達に携わるJERAの中村玲子燃料オペレーション部長だ。LNGの在庫が約2週間分なのに対し、スポット調達の量は日本に来る1.5~2カ月前に決める必要がある。「さまざまなリスクに備えて在庫を見込むが、気温の変化や石炭火力発電所の計画外停止に加え、ロシアによるウクライナ侵攻でサハリンから供給される天然ガスまでもが大きな供給途絶リスクとなった時には、かなり頭を悩ませた」と率直に打ち明ける。

 また、「50年以上前、日本が世界に先駆けてLNGを導入し普及拡大に貢献したことに対する供給国側からのリスペクトや、契約を確実に履行する信頼の厚さを感じる一方で、最近では売買による経済合理性を重視する傾向が強まっていることも肌で感じている」と危機感を募らせる。「将来が見通しづらい中でもあらゆるリスクを可能な限り分散・低減させるために、調達を多角化してポートフォリオを組むことや在庫のトレーディングによって需給の調整を柔軟にする取り組みが重要だ」という。

 国内外のLNG事情に詳しいエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の白川裕調査部LNG情報チーム担当調査役は「資源に乏しい日本は、短期的には在庫を確実に保有すること、長期的には開発などの上流投資不足に陥らないことが重要だ。また、トレーディングにおいては、日本単体で考えるのではなく、周辺国を巻き込みアジア全体で取引量を増やす戦略が有効だ」と指摘する。また、「調達の多角化は必要だが、その分、供給する国や契約数の増加は避けられない」と話す。

 電力事業者にとっては、船の仕様の違いや産地ごとに異なるLNGの成分など、現場のオペレーションに関わるリスクとして気を配ることが増える上、確実に履行されるか不透明な契約が増加する可能性がある。電力の安定供給やリスクの低減を重視する事業者の性格とは必ずしも一致しない部分もあるだろうが、経営的にはそれを許容し、ある種の〝リスクテイク〟を厭わない姿勢と胆力が求められることになる。

 2023年5月末時点で、国内で稼働中の原発は関西電力、四国電力、九州電力の全9基だ。再稼働が思うように進んでおらず、燃料調達における戦略立案の難しさや複雑さが増している。

 原発が立地する自治体の知事によって再稼働の方針などに〝揺らぎ〟が見られることが、それに拍車をかけている側面も否定できない。東日本大震災以降、日本の電力供給は〝綱渡り〟の状況が続く。だからこそ、政府による強いリーダーシップが問われているのである。

 電気は「あって当たり前」の世の中だが、それを支えるのは国民が普段目にすることのない現場で働く人々の〝矜持〟である。彼らもまた、われわれの生活の根幹を担うエッセンシャルワーカーであることに疑いの余地はない。電力需要が増大する夏本番を前に、その存在の大きさを再認識する必要がある。

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Wedge 2023年7月号より
新たなエネルギー地政学
新たなエネルギー地政学

ロシアによるウクライナ侵攻は国際的な燃料価格の高騰を招き、エネルギー情勢の“世界地図”は大きく書き換えられた。脱ロシアに苦心する欧州、存在感を増す産油地域・中東、日本との距離を縮める豪州、石炭火力から逃れられないインド・ASEAN、そして、毎夏のように電力逼迫が叫ばれ、節電要請を強いられる日本─。石油危機から50年。「安定供給」と「脱炭素」の狭間で揺らぐ世界の潮流を読み解きながら、わが国のとるべき道を探ろう。


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