このような観点に基づいたこれまでのところの対応が、自国の民間航空会社に対するリスク低減措置としての民間航空機による中国政府への運航計画提出の「容認」であり(日本では米政府が指導したようなニュアンスの報道が多いが、これは事実と異なっており、「運航計画の提出をするのであれば、米国政府はそれを止めたりはしません」という程度の対応である。ただし、この点については米国でも混乱があるため、オバマ政権がもっとしっかりと説明すべきだった、特に、日本や韓国に対する事前説明をもっとしっかりとするべきだったと指摘する専門家は多い)、訪中中のバイデン副大統領による「リスク管理の徹底」に焦点を置いた発言であるようだ。政府レベルでは、ADIZの存在を許容する気は毛頭ない、というのは、先般のB-52爆撃機の飛行からもすでに明らかである。
日本では、バイデン副大統領訪日中にADIZを撤回させるための共同声明が出なかったことや、副大統領の中国でのこの問題に対する発言が「日本が期待したよりも中立(ある米民主党系コンサルタント)」であったことばかりに目が奪われ、「日米の対応に温度差がある」「米国は中国と日本の頭越しで取引するのでは」という議論がされがちである。
日本として何ができるのか
しかし、今日本に必要なのは、米国の対応がどのようなものになるにせよ、その一挙手一投足に一喜一憂することなく、「日本の領空を守るために、その中で中国との間の偶発的事故のリスクを少しでも低くするために、また中国がこれ以上大胆な行動に出ることを自制するために、日本として何ができるのか」についての議論ではないだろうか。
日本が今後、何をするべきかを考えた時、米国と引き続き緊密な連携をとる努力を続けることは当然だ。また、自前の防衛力の強化、特に航空・海上兵力の分野での能力向上は、より一層の緊迫感を持って進めなければならない。さらに、偶発的事故のリスク軽減には、情報収集・分析能力のさらなる向上が求められるし、力で現状を強制的に変えるような行為に対しての抗議の声を国際社会にきちんと届けるためには、ICAOなどの国際機関の場を通じてのメッセージ発信も極めて重要になるだろう。また、そのような対応方針の決定は、日中の経済面での関係もきちんと考慮したものでなければならない。要は、「オール・ジャパン」での取り組みが求められるということだ。
日本ではこのたび、NSCが発足した。NSCにはぜひ、このような問題について「オール・ジャパン」での対応策を策定していく上での司令塔になることを期待したい。
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