2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年7月12日

やるべきはWTOの再起動

 このウルフの論説は緻密な議論を展開しており、説得力がある。ウルフは、関税に強く反対するが、補助金には絶対反対というわけではない。

 同氏は、自由主義万能論者や完全自由貿易論者ではない。かといって無原則な経済介入論者でもない。これが国際化した世界での最善の立ち位置と言えるであろう。

 一般論として、関税が低所得者層にとり逆進的であることは、重要な指摘だ。つまり、関税政策は高所得者よりも低所得者に不利に働く。PIIEの論文は他所でも引用されている。

 トランプの関税政策は、乱暴な政治論だ。「もしトラ」になったらどうするか、心配が募る。

 米国の議論は、なぜこんなに劣化したのか。環境と貿易の問題や中国の過剰生産問題は、真面目で、真正な問題である。

 世界貿易機関(WTO)が機能していれば、WTOはこれらを議論し、協力的解決を図る重要な場所となったはずだ。米国がWTOに対してやってきたこと(例えば、紛争処理制度の最終審に当たる上級パネルの委員の選考を阻止して機能不全に陥れた、など)の弊害が、ブーメランのように返ってきているように思える。

 WTOを再起動すべきである。多国間主義は、厄介だが、それは米国の利益にもなってきた。そういうところでやれば米国の問題提起や主張には米国の想像以上に支持もあったのではないか。

 米国は自らの力を過小評価している。自分の力を過小評価すればするほど、自分の威信や影響力も失うことになる。米国は、そろそろそれを悟るべきだ。

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