2024年7月22日(月)

Wedge REPORT

2024年7月22日

日本の機会と留意点

 ここまで見てきたように成長著しいクルーズ観光であり、国土を海に囲まれた日本にとってクルーズ観光は大きなビジネスチャンスになりうる。日本国内で訪日クルーズ船の寄港港湾数は23年に92港であった。港湾別にみると1位横浜(171回)、2位長崎(96回)、3位神戸(ベラビスタ:91回)、4位鹿児島(82回)、5位那覇(79回)、6位博多(75回)、7位広島(59回)、8位清水(57回)となっている。

 旅客船専用バースのある港の寄港が多く、世界的観光地として有名な北海道や那覇は必ずしも多くない。逆に言えば、今後のインフラ整備次第では世界的に成長するクルーズ市場のビジネスチャンスを取り込むことも可能なのである。

 しかし、いくつかの留意点もあり、それをよく考察して対処する必要もある。

 一つは自然環境負荷である。クルーズ船は大量の廃棄物を発生させ、雑排水、固形廃棄物などが海上汚染に影響を与える可能性がある。

 乗客3000人程度のクルーズ船は約200トンの汚水を毎日排出しており、陸上施設よりも機能の劣る船上浄化方法で処理された汚水が海に与える影響が懸念されている(”Tourism: Principles and Practice” John Fletcher、2017年)。実際にカーニバル・グループの“プリンセス・クルーズ”は不法投棄の罰金として米国に2000万ドルの支払いに合意している。同社は排出するごみの量を正確に計測しておらず、乗務員らに査察を受けた際に備え、虚偽の報告書を提出させていた罪にも問われた。

 新しい船は汚水処理機能が改善する傾向があると言われているのだが、客観的にクルーズ船の環境負荷を測定する仕組みは必ずしも整備されていない。

 もう一つは経済効果とオーバーツーリズムのバランスである。クルーズ船は、短時間に大量の観光客が特定の人気観光スポットに集中する傾向があるため、観光許容量(Carrying Capacity)が低い地域への負荷が大きくなりがちである。つまりオーバーツーリズムのリスクがあるのだ。

 また、クルーズ観光の経済効果に関しては意見が分かれている。クルーズ観光客は地域にあまり利益を落とさないという意見もあれば、クルーズ後にその地域に再訪することも含めて経済効果が高いとする意見もある。

 理由としては、港の規模・機能・特徴、エリアの経済構造・規模、クルーズ船の大きさやクルーズ客の属性、オプショナルツアーのタイプなどが複雑に作用するからである。乗客が寄港地域へ観光する際に、クルーズ観光会社が「寄港時の観光において、クルーズ会社の紹介するオプショナルツアーが現地で何か想定外のことが起きて出向時間に間に合わない場合に出発することはない」と自社ツアーに誘導する事例がある。

 また、人口100人当たりの需要は米国で2.62人、日本は0.16人であり、日本ではクルーズ観光を楽しむ人はまだまだ少ない。クルーズ船の客層は中高年が多いのだが、これもオリエンタルランドの取り組みをきっかけに若年層にも広がり、より多くの人がクルーズ観光を楽しむようになることを期待している。筆者も昨年はインバウンド直後で行きたいクルーズが満員であきらめたのだが、来年はクルーズ観光を予定している。

 ディズニーをきっかけにクルーズ船への興味がまた盛り上がるのではないかと思われるが、現状クルーズ船を受け入れている地域も、まだあまり受け入れていない地域も、改めてクルーズ船戦略を再考されてはどうだろうか。

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