2024年7月31日(水)

BBC News

2024年7月31日

イスラム組織ハマスは31日、最高幹部イスマイル・ハニヤ政治局長(62)がイランの首都テヘランで、イスラエルによる攻撃で殺害されたと発表した。

イランのメディアによると、ハニヤ氏はテヘラン市内の退役軍人関連の建物に滞在していた。午前2時ごろに攻撃があった。滞在中の住宅がミサイルで攻撃され、ハニヤ氏と護衛が死亡したとの情報もある。

ハニヤ氏は、ハマス全体の指導者と広く考えられている。

イスラエルはコメントを出していない。

「卑劣な行為」とハマス幹部

ハマス政治局のムサ・アブ・マルズク氏は、今回の攻撃を「卑劣な行為」だとし、「報復は免れない」と述べた。ハマス幹部のサミ・アブ・ズフリ氏は、ハマスが「自分たちの道を歩み続ける」と話した。

ハマスによると、ハニヤ氏はイランのマスード・ペゼシュキアン新大統領の就任式に出席するため、テヘランに滞在していた。同大統領は30日に就任した。

ペゼシュキアン新大統領は、ハニヤ氏を「勇敢なリーダー」と呼び、イスラエルがハニヤ氏を「卑怯」にも暗殺したことをイスラエルに「後悔」させると述べた。さらに、「イランは自国の領土的一体性を守り、名誉と誇りを尊厳を守る」と強調した。AFP通信が伝えた。

イランの最高指導者、アリ・ハメネイ師は、ハニヤ氏暗殺に対する報復は「イラン政府の義務」だと述べ、イスラエルは「厳しい罰」を受けるだけのことをしたと非難した。

イラン国営メディアによると、同国外務省は、ハニヤ氏の「殉教」が「テヘランとパレスチナ、そしてレジスタンスの間の深く、断つことのできない絆を強める」とコメントした。

カタールのタミーム・ビン・ハマド・アル・サーニ首長はソーシャルメディアに、「和平交渉が続く間も、政治的暗殺があり、ガザの民間人攻撃が続く。となると私たちは尋ねる羽目になる。交渉当事者の片方が、相手の交渉担当者を暗殺する事態のなか、いったいどうやったら仲介が成功できるというのか」と書いた。

これに先立ちカタールの外務省は、ハニヤ氏殺害を「凶悪な犯罪で危険なエスカレーション、そして国際法と人道法に甚だしく違反する行為だ」と非難。「この暗殺と、イスラエルが絶え間なく民間人を標的にする無軌道なふるまいによって、この地域はカオスにすべり落ちていきかねないし、平和の可能性を損なう」とも批判した。

ロシアとトルコの外務省も、今回の攻撃を非難。トルコの外務省は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相には「平和を実現するつもりなどない」と批判した。

ヨルダン、レバノン、中国の外務省もそれぞれ、ハニヤ氏暗殺を非難している。

「ハマスとは概念」と幹部

現在ロンドンから取材しているBBCのラシュディ・アブアルーフ・ガザ特派員は、複数のハマス関係者に話を聞いたところ、何が起きたのかについてそれぞれ違うことを話しており、「ショック状態にある様子」だと伝えている。

ガザ幹部の一人はアブアルーフ記者に、「ハマスとは概念だ。ハマスとはイデオロギーだ。そして、指導者を殺してもハマスは変わらないし、ハマスがこれで降伏したりこれ以上の譲歩をしたりすることもない」と話した。

元外交官でイギリス政府の安全保障顧問だったピーター・リケッツ卿はBBCに、ハニヤ氏の暗殺は「イスラエルが地域のどこでも攻撃を成功させられると、非常に強力に示した」ことになると指摘。

暗殺成功によってイスラエルは「ガザでの作戦収束へ向けた政治的な余裕を得たことになる。(ネタニヤフ首相は)これで本当に、ハニヤの指導力に大々的な打撃を与えたと言えるようになったからだ」とリケッツ卿は説明する。

ただし、この暗殺を機にハマスが和平合意に応じなくなる可能性が高いため、「中東では引き続き非常に危険」な状態が続くともリケッツ卿は話した。

イスラエルは今回のハニヤ氏殺害についてコメントしていない。ただし、同国南部が昨年10月7日にハマスに攻撃されて約1200人が殺害されたことを受け、イスラエル政府はハマスの壊滅を誓ってきた。

イスラエルは、ハマスが支配するパレスチナ自治区ガザ地区で、大規模な軍事作戦を展開。ハマス運営の保健当局によると、これまでに少なくとも3万9400人がガザで殺されているという。

ヒズボラ最高幹部殺害の発表直後

イスラエルは30日に、レバノンの首都ベイルートの南郊を空爆し、イスラム教シーア派組織ヒズボラの最高幹部フアド・シュクル氏を殺害したと発表したばかり。レバノンを本拠とするヒズボラは、イランの支援を受けている。

イスラエル当局は、同国が占領するゴラン高原で27日にあったロケット砲攻撃への報復として、シュクル氏を殺したとしている。

ヒズボラは、シュクル氏が殺害されたとは認めていない。だが、攻撃された建物の中に同氏がいたとしている。

ハニヤ氏とは

1963年にガザ地区の難民キャンプで生まれたハニヤ氏は、1980年代後半にハマスの有力メンバーとして活動。1989年から3年間、パレスチナ蜂起の弾圧に乗り出したイスラエルによって収監された。

1992年、ハマスの他の指導者らと共に、イスラエルとレバノンの間の地帯に追放された。

2003年にはハマス創設者と共にイスラエルの暗殺攻撃の対象となるものの、生き延びた。

2006年のパレスチナ立法評議会選挙でハマスが最多議席を獲得すると、パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長によってパレスチナの首相に任命された。しかしその1年後、ハマスがガザからアッバス氏率いる政党ファタハを追放し、1週間にわたる暴力沙汰で死者が出るなどした後、解任された。

ハニヤ氏はこの解任を「違憲」だとして拒み、「パレスチナ国民に対する国家的な責任を放棄しない」と強調。ガザで統治を続けた。

2017年にはハマスの政治局長に選出された。

2018年には米国務省にテロリストに指定された。ここ数年間はカタールに住んでいた。

(英語記事 Top Hamas leader Ismail Haniyeh killed in Iran

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c51ynx5vjeqo


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