2024年7月31日(水)

BBC News

2024年7月31日

英イングランド北西部サウスポートで29日午前、子供向けのダンス教室で子供3人が刃物を持った人物に襲われ殺害された事件で、現地では30日、3人を追悼し、他の被害者を支えようと、街の中心部に大勢が集まった。警察に暴力をふるう事態も発生した。

この事件では他の子供たちも負傷し、子供たちを守ろうとした大人2人も重体という。近隣の村に住む17歳少年が、殺人や殺人未遂の疑いで逮捕された。

マージーサイド警察によると、死亡したのはビービー・キングさん(6)、エルシー・ドット・スタンコムさん(7)、アリス・ダシルヴァ・アギアールさん(9)。全員女の子で、アギアールさんは重体だったが30日早朝に亡くなった。

街中ではこの日、大勢が警察に暴力をふるい、警官39人が負傷した。そのうち8人は重傷という。集団は警察車両や救急車両に火をつけたほか、警官やイスラム教寺院に向かって物を投げつけるなどした。

マージーサイド警察によると、極右団体「イングランド防衛同盟(EDL)」の支持者たちが一連の暴力行為の背後にいるという。アレックス・ゴス副本部長は「おぞましい」ことだと非難し、「マージーサイド地域に住んでいるわけでもなければ、マージーサイドの人たちを気にかけているわけでもない大勢」が関与したと述べた。

イヴェット・クーパー内相も、発生した「乱暴狼藉(ろうぜき)」は、お互いを支えるために集まった地元住民とは「何の関係もない」ものだと非難した。

「私たちのプリンセス」

事件で殺害された女の子3人のほか、負傷した子供5人と大人2人が重体となっている。

亡くなったキングさんの家族は、「私たちを襲った衝撃」は「言葉にならない」とマージーサイド警察を通じてコメントした。

アギアールさんの両親は、「私たちのプリンセス、いつもにこにこして、大好きなダンスを続けてね」とコメントした。

スタンコムさんについては、通っていた小学校の教師が「愛情たっぷりで賢く」、「思いやりとカリスマ性のある幼いレディ」だったとしのんだ。

襲撃されたダンスとヨガの教室を主催していたとされるリアン・ルーカスさんについても、称賛の声が相次いでいる。入院中のルーカスさんは35歳と推測されている。

「あなたの勇気は国民の心を震わせました。みんなしてあなたのため、そして影響を受けた家族たちのために祈っています」と、インスタグラムに投稿した人がいた。

ほかにも、「リアン、あなたのことを思って祈っています。闘い続けて」という書き込みもあった。

憶測を控えるよう警察呼びかけ

BBCの取材の結果、逮捕された17歳少年はウェールズ・カーディフで生まれ、2013年にサウスポート地域に引っ越していたことが分かった。両親はルワンダ出身で、同じカーディフで生まれた兄がいるという。

警察によると、犯行動機は「不明」だが、テロ関連の事件としては扱っていない。共犯の存在は認識していないという。

警察は、容疑者に関連してオンラインで拡散された名前は「正しくない」と指摘し、「捜査が続く間、事件の詳細について憶測を流さない」よう呼びかけた。

マージーサイド警察のゴス副本部長は、「現在警察が勾留中の17歳男性の状況について、多くの憶測と仮説が飛び交っており、一部の者はこれを利用して、この街に暴力と混乱を持ち込んでいる」と指摘。

「我々はすでに、逮捕された人物はイギリスで生まれたと発表している。現時点で憶測はだれにとっても何の役にも立たない」と副本部長は強調した。

野党・保守党のジェイムズ・クレヴァリー影の内相も、偽情報をソーシャルメディアで広めて、「他人の悲嘆に参加」しないよう呼びかけた。「ただでさえ悲痛な思いをしている人が大勢いるのに、オンラインの憶測やゴシップでそれを増幅させてはならない」とクレヴァリー氏は述べた。

「一生忘れない」

被害者たちを助けようと襲撃現場に入ったパーソナル・トレーナーのジョール・ヴェリティさんは、犯人と「目が合った」時のことを、英スカイ・ニュースに話した。

ヴェリティさんは、血だらけになった女性を見て現場に入ると、階段の踊り場でナイフを手にした襲撃犯を目にしたという。

「下の階へのドアを開けると(中略)階段の下に、全身ジャージー姿でフードをかぶって、手にナイフを持っていた男がいた」

「目が合って、お互いを見たあと、男はこそこそ横へ移動した」

自分がこの時見たものは「たぶん一生忘れられないと思う」と、ヴェリティさんは話した。

サウスポートでは30日夕、大型複合文化施設「アトキンソン」の前の広場で追悼集会が開かれた。

大勢が集まり、死亡した女の子たちと負傷者のため、1分間の黙とうがささげられた。被害者のために花束やクマのぬいぐるみなどが手向けられたほか、救急対応の職員をたたえる言葉や拍手が続いた。

サウスポートが含まれるセフトン行政区のジューン・バーンズ首長は、この追悼式を通じて被害者の家族を支えたいと話した。「これほどひどい事態の時に、言葉を見つけるのは難しい」とも述べた。

サウスポートでは複数の教会が扉を開き、住民が集まることができる場所を提供している。弔意を示すためこの日は閉店したパブや店舗もあった。

政府からはクーパー内相とキア・スターマー首相が事件現場を訪れた。スターマー首相は、「生々しい苦痛と悲しみを経験している家族や被害者」に敬意を表するためだと述べ、「自分も一人の父親として、家族たちがいまどういう思いでいるのか、想像しようとしてもしきれない」と話した。

首相はさらに事件対応にあたった救急隊を表敬し、「皆さんのしたことを大いに誇りに思っている」、「皆さんが今日も出勤して職務に就いているのを見て、意外ではないけれども驚嘆している」と述べた。

首相は、「国民全員に代わって、『ありがとう』と言いたかった」のだと話した。

「救急隊は命を救った。自分がその場に行き、直接『ありがとう』と言うのがとても大事なこともある」とも、スターマー氏は述べた。

テイラー・スウィフトさんも追悼

襲われたダンス教室では、米歌手テイラー・スウィフトさんをテーマにしたイベントが開かれていた。

スウィフトさんは30日、インスタグラムに追悼の言葉を投稿した。

「サウスポートでの昨日の襲撃の恐ろしさ、その思いが何度も私に降りそそいで、私は完全にショック状態にあります」とスウィフトさんは書いた。

さらに「命と無垢(むく)が失われ、そこにいた全員が、家族も救急スタッフも、恐ろしいトラウマを経験してしまった。小さい子たちがダンス教室にいただけなのに。家族の人たちにどうやってお悔やみの気持ちを伝えたらいいのか、まったく分からずに途方に暮れています」と、スウィフトさんは書いた。

スウィフトさんのファンが被害者の家族のために立ち上げた募金は、30日夜までに20万ポンド(約3900万円)を集めた。

ほかにも被害者のために、複数の募金活動が行われている。

(英語記事 Community in mourning after three girls killed in knife attack / Thirty-nine police officers injured in Southport unrest

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cx92z9xejwdo


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