2024年8月8日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年8月8日

 この環礁はフィリピンの排他的経済水域に位置し、国連海洋法条約に基づけばフィリピンが使用する権利を持つ場所だ。中国は、南シナ海のほとんど全てに対して権利を主張する一環で、この環礁に対しても主権を主張している。しかし、中国の南シナ海に対する主張は、2016年の仲裁裁判で否定された。

 「双方は、南シナ海における緊張を下げ、対話と協議を通じて立場の相違を解決することの必要性を引き続き認識する」とフィリピン外務省は述べ、さらに、この合意は南シナ海における双方の立場に影響を与えるものではない、と付言した。

 関係者によれば、この合意が争いの緊張を緩和することに成功するかどうかには疑問が残る。マニラ駐在の外交官は、「第二トーマス礁に対するフィリピンのコントロールを阻害しようとする中国の決意が弱まる兆しは無い」と言っている。

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フィリピンが取り決めへ動いた背景

 内容次第ではあるが、大局的に見れば、中比間で現在の緊張を緩和する取り決めが合意されたのは良かったと言うべきだろう。ここ数週間、国際的には(特に米国では)、インド太平洋地域では、南シナ海の本件事象が台湾海峡問題や北朝鮮問題にも増して、一番の懸念事項だった。

 まず、フィリピン側が今回の取り決め形成に動いた背景は何だろうか。米国は、米比安保条約が第二トーマス礁にも適用される(つまり、同礁に対する武力攻撃は同条約に基づく米国のフィリピン防衛義務の引き金を引く)ことを明確にした。尖閣諸島に比べ第二トーマス礁が防衛対象だと表明するのはそれなりに勇気のいることだっただろうが、中国との関係で一定の抑止になることを意図したのだろう。

 しかし、中国側の挑発はほとんど収まらなかった。これは典型的なグレーゾーン事態であり、そもそも、中国の海警は軍隊では無く、体当たりや放水銃自体は武力攻撃では無いので、米国は対抗行動を取らなかったし、それを正当化する理由も無い。それでも、フィリピン側には米国の抑止の実効性と信頼性への信頼に揺らぎが生じただろうことは、想像に難くない。


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