米側が対応しないことへの落胆に加えて、中国側が米側の足元を見ていると感じただろう。今回の中比の暫定合意成立には米国もホッとしているだろうが、フィリピン側から見れば、やはり自助努力をしないと状況は変わらない(米国は頼りにならない)という冷徹な現状認識があったのだろう。
マルコスの「バランス」外交
第二に、マルコス政権の対中・対米政策をどのように見るべきなのだろうか。実際、前任のドゥテルテ大統領と異なり、米軍の展開場所の拡大や日米比首脳会談、日本との円滑化協定締結、豪州やベトナムとの関係強化など、日米に相当近い立ち位置を取っているとように見える。
しかし、フィリピンも、平時には米中のどちらともことを構えたくないという、他の東南アジア諸国と同様の立場が基本だと理解すべきであるように思われる。マルコス大統領が22年6月30日に就任した後、初めての二国間訪問の先は23年1月の中国だった。同年2月には訪日、5月に訪米という順番だ。
マルコスは、習近平に対して、南シナ海の緊張緩和に向けた対応を要請してきたのだと思われるが、中国側の圧力は逆に強まった。それを受けてマルコスとしても、主権について安易な妥協はできず、結局、前任者と異なり第二トーマス礁の状況をプレスに公開し、日米への接近を強め、それが中国側の一層の反発を招く、という悪循環に陥ったという流れのように見える。
今後中国側の対応が大きく変わらない限り(実際変わらないだろう)、現在のフィリピン側の日米側への接近という方向性は変わらないが、それはマルコス大統領が「親米」だからではなく、中国とのバランスでそうなっているということは十分踏まえておく必要があるということだ。これは、台湾危機を巡るフィリピンの役割への期待値を奈辺に置くかにも関わる問題だ。