2024年11月22日(金)

唐鎌大輔の経済情勢を読む視点

2024年8月9日

 片や、21年から23年についても円安バブルだったという評価が今、議論されているわけだが、日本経済の好調を指摘する向きは乏しく、むしろスタグフレーションの疑いがかかっている。強いて円安バブルがあったとすれば、それは株式市場や不動産市場を筆頭とする資産価格の話であって、実体経済は円安経由の物価高で逆に苦しんでいる実情がある。円安・資産価格バブルという方がしっくりくるかもしれない。

貿易赤字国として迎える利下げ

 要するに現在は前回円安バブルと言われた05年から07年とは円の需給環境が全く異なっている。米国の利下げを迎え撃つこれからの展開を検討するにあたっては、その辺りの相違を考慮する必要がある。

 紙幅の関係上、議論は割愛するが、実は日本は貿易赤字国として米国の利下げを迎えた経験がほとんど無い。19年7月以降の米連邦準備理事会(FRB)利下げが貴重なサンプルとして挙げられる。

 直後の同年8月こそ確かに円高になったが、この年を最後まで見ると「3回利下げして3円程度円高になる」といった程度の動きだった。もちろん、蓄積しているポジションや米国経済の状況が違うため単純比較は困難だが、需給構造だけを見れば05~07年の日本と21~23年の日本はほとんど「別の国」と言っても良い。多額の貿易黒字を抱え、多くの実需の円買いを誇った前者の時代と異なり、現在は統計上の黒字があっても実需の円買いはさほどではないという見方は多い。

 簡単に図式化すると、当時は図表④における①から②への移行だったが、今回は③から④への移行となる。今次局面は「実需の円売り」が残ってしまう分、円高の震度は異なるのではないか。少なくとも05~07年の経験になぞらえて、超円高局面が再来するかのような言説にはまだ慎重でありたい。

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