ジェイムズ・ウォーターハウス、ウクライナ特派員(スーミ州)
「Z」の文字は、ロシアのウクライナ侵攻を象徴するシンボルかもしれない。一方で「白い三角形」は、そのロシア軍を撃退するという、ウクライナの最も大胆な試みを象徴している。
ウクライナ北部スーミ州では、補給トラックや戦車、人員輸送車がロシア国境へ向かう様子が目撃されている。そのすべての車両の側面には、テープや塗料を使って三角形が描かれている。
この攻撃は、ロシアの領土を数百平方キロメートルにわたり占領し、ウクライナ側の戦争努力に勢いと士気を明らかに回復させた。
ロシアの国境地帯にあるクルスク州の当局者は、ウクライナの支配下にある28の集落について、20万人近くのロシア人が自宅から逃れていると述べている。
ウクライナ軍のトマシュ氏は、仲間の「アコード」とともに、越境攻撃の任務から戻ったところだ。仲間は「クールな」任務だったと淡々と語る。
彼らのドローン(無人機)部隊は2日間かけて、越境攻撃のための地固めをしていた。
トマシュ氏は給油所でコーヒー休憩をとりながら、「我々はここに来るよう命じられたが、それが何を意味するのかは知らなかった」のだと認めた。
「(越境攻撃における障害を取り除くため)我々は敵の通信手段や監視手段を事前に抑え込んだ」
具体的にどれだけのロシア領土が占領されたのかは不明だ。1000平方キロメートルの領土がウクライナの支配下にあるという、ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官の主張をめぐっては懐疑的な見方がある。
ロシア国防省は13日、ロシア領内にさらに深く侵入しようとするウクライナの試みは阻止されたとしたが、同省の主張に間違いがあることは以前に証明されている。
現実がどうであれ、ウクライナ政府はこの軍事的な賭けに力を注いでいるようだ。
ロシア・クルスク州に国境を接するウクライナのスーミ州で、これほどの水準の軍事活動を私が目撃したのは、スーミ州が解放されウクライナが追い風を感じていた2022年以来だ。
この1年半の消耗戦から抜け出すという点では間違いなく歓迎すべきことだが、それを成功と言うのか失敗のレッテルを貼るのか判断するには時期尚早だろう。
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は自軍について、ロシアがウクライナに攻撃を仕掛けることができる場所を標的にし、「公正な平和」へと近づいていると語っているが、この攻撃の目的は不明だ。
とはいえ、ウクライナが最高の部隊を投入しているのは明らかだ。
健康そうな兵士たちが、そのたくましい体に見合った車両の周りに集まっている。大半の兵士は話をするのを丁寧に断った。疲れ切っているように見える兵士もいる。
今もロシア国内に残っているという兵士の一人が、メッセージアプリ「テレグラム」を通じて私たちの取材に応じてくれた。この兵士によると、ウクライナ国内の前線があるほかの地域からロシア部隊を移動させるための計画が何か月も練られていたという。
「この意外性が、うまく機能した」と、兵士は述べた。
「我々はほとんど抵抗を受けることなく、(ロシア領内へ)容易に侵入した。8月6日に、夜の間に最初の部隊がいくつかの方向へと入っていった」
「この部隊はほぼその直後に、スジャ市の西郊に到達した」と、兵士は付け加えた。
このような作戦においては、口が堅いことが、それを実行する兵士にふさわしい要素といえる。同じことを民間人には言えないが。
空爆と戦闘が増加し、国境の両側では何万人もが避難している。
「我々が遭遇するロシアの民間人は抵抗はしてこない」と、兵士は説明する。「こちらは彼らに手を出さないが、彼らは我々に厳しく、否定的に接するか、あるいはまったく接しようとしない」。
「それに、ロシア部隊の位置について私たちをあざむいてくる」と、兵士は付け加えた。
私たちが話を聞いた兵士たちは、ハルキウやポクロフスク、トレツクを含むウクライナ東部の前線からロシア部隊が再配置されたことを認めた。
しかし、ロシア軍の前進スピードが鈍化しているとの報告はまだない。
ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、第2次世界大戦以来初めてロシア領が占拠されたことに対し、「価値ある対応」を取ると約束している。
ただ、プーチン氏が示唆した恐怖は、ロシア部隊が常に爆撃している、土の道路がのびる国境沿いの集落には、まだ届いていない。
私たちはスーミ州ステツキウカ村で、オレンジ色の車に乗ったミシャ氏と友人のヴァレラ氏と出会った。
「(ウクライナ軍にはクルスク州を)占領して、こうしてもらいたい!」と、手をひねるようなジェスチャーをしながら、ミシャ氏は言う。
「(軍は)すべてを奪うべきだ、モスクワでさえも!」
その様子は、2022年2月に始まったロシアの執念深い全面侵攻を受ける側に植え付けられた怒りを表していた。
「先に攻撃してきたのはロシアで、私たちじゃない」と、ヴァレラ氏は車の窓を開けて同意する。
「そして今、自分たちの軍がそれに応え、自分たちの能力を示している。許可が下りていれば、もっと早く(ロシアの領土を)奪えていただろう」
ウクライナは国境を越えてロシアを攻撃することをずっと切望していた。そのゴーサインをついに、西側諸国から得たようだ。
スーミ市郊外に新たな防衛が築かれるなど、この攻撃には依然として非常に高い危険性が伴う。
この地域は先週まで、ウクライナ北部におけるロシア軍の攻撃を恐れていた。ウクライナのロシア侵入が失敗に終われば、その不安はすぐに現実のものとなる可能性がある。
ウクライナ部隊は今も、兵士の数でロシアの侵略者に劣っている。
「我々がこのロシア領を占拠し続けるには、二つのことが必要だ」と、敵地にいるウクライナ兵は言う。
「スジャのような町をもっと支配下に置くことと、予備役が必要だ」
「我々の前線はすでに、壊れる寸前だ。(予備役を)どこで確保できるかは不明だ」
ウクライナ政府にとっての理論または望みは、ロシアがウクライナ領内での戦闘から自国での戦闘に切り替えざるを得なくなる、ということだ。
ウクライナ国民の中には、現在の反攻が将来的な和平交渉における同国の立場を強固にする可能性さえあると考えている人もいる。
それは同時に、和平交渉をさらに遠ざけることにもなりかねない。
追加取材:ハンナ・チョルノス、ソフィー・ウィリアムズ、アナスタシア・レフチェンコ
(英語記事 We entered easily, say Ukrainian troops involved in Russia incursion)