2024年8月14日(水)

BBC News

2024年8月14日

フランク・ガードナー安全保障担当編集委員

ウクライナ外務省は、先週占領したロシア領を永久に維持するつもりはないと発表した。

しかし、ウクライナは今日もなお、厳しい選択を迫られている。ロシア政府に最大限の圧力をかけるために軍を駐留させ続けるのか、それとも今すぐ撤退するのかの選択だ。

東部ドンバスの前線でロシアのドローン(無人機)やミサイル、滑空爆弾に日々打ちのめされ、疲弊した部隊が徐々に後退するなか、ウクライナはこの夏、悲痛なほど朗報を必要としていた。

そして、非常に大胆かつ巧妙に行われたロシア西部クルスク州への越境攻撃により、それをつかみとった。

匿名を希望したイギリス軍関係者はBBCに対し、「今回の攻撃で最も印象的だったのは、ウクライナ軍がいかに複合兵器をうまく使いこなし、防空戦から電子戦、さらには装甲車や歩兵まで投入したかということだ。感動的なまでの遂行だった」と語った。

ウクライナはまた、ドイツの歩兵戦闘車「マルダー」を含む装甲車など、西側から供与された近代兵器のいくつかを、昨夏に失敗に終わった反転攻勢の時よりも、かなり効果的に使用したように見える。

では、ウクライナの越境攻撃は、ここからどこに向かうのだろうか。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が始めたこの戦争が今やロシア人に苦痛を与え、ウクライナが最近のドンバス地方での挫折にもかかわらず、近代戦のあらゆる要素を駆使した洗練された連携攻撃が可能だと示したとして、ウクライナはすでに目的を果たしたと言う慎重派もいるだろう。

これは言い換えれば、クレムリン(ロシア大統領府に)に一撃を食らわせたのだから、名誉ある撤退をせよということだ。ロシアが、侵攻してきたウクライナ兵を殺すか捕らえるのに十分な兵力を投入する前に。

しかし撤退は、ウクライナが国境を越えて攻撃した明白な目的のうち、二つを否定することになる。一つはロシアに十分な圧力をかけ、ドンバスに駐留する軍隊の一部を移動させることだ。そしてもう一つは、将来の和平交渉の切り札として、十分なロシア領土を確保することだ。

英エクセター大学のデイヴィッド・ブラグデン博士は、「もしウクライナ政府がロシアの領土を維持すれば、より強い立場から自国の領土の返還を交渉することができる」と話す。

「また、プーチン政権が万能であるというロシアの人々の印象を損ない、クレムリンに権力保持が危ういと思わせて、和解を求めるように仕向けたのだろう」

一つはっきりしていることがある。ウクライナ軍がロシア国内に駐留することは、プーチン氏にとって耐え難いということだ。プーチン氏はウクライナを、独立国家として存在すべきだとすら考えていない。

プーチン氏はこの問題に全力を投じると同時に、ドンバスでウクライナに圧力をかけ続け、ドローンやミサイルによるさらなる攻撃で、ウクライナ国民をこらしめるだろう。

12日にモスクワで開かれた緊急会議のテレビ映像を見ても、プーチン氏のいら立ちは一目瞭然だった。

では、ウクライナの賭けは報われたのだろうか?

まだ何とも言えない。もしウクライナ軍がロシア国境の内側にとどまるなら、ロシア政府の反応が本格化し、ウクライナへの攻撃はますます激しくなると予想される。

前出のブラグデン博士は、「特に供給線が長くなっている今、越境攻撃を継続し、占領した領土を維持しようとすれば、人員、装備、後方支援の面で大きな負担がかかる」と指摘した。

今回の攻撃が、ウクライナにとって今年最も大胆な行動であることは間違いない。同時に、最もリスクの高い行動にもなっている。

(英語記事 Ukraine’s incursion: Where does it go from here?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c1l5pp26jn6o


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