2024年8月20日(火)

BBC News

2024年8月20日

11月のアメリカ大統領選に向けて、与党・民主党の全国党大会が19日、シカゴで始まった。民主党の大統領候補になるカマラ・ハリス副大統領が大会初日としては異例の登壇をし、ジョー・バイデン大統領の功績に感謝したほか、数々の民主党関係者や支持者がハリス氏と共和党候補のドナルド・トランプ前大統領との対比を強調した。

最後に登壇したバイデン大統領は深夜に及んだ50分近い演説の中で、「自由と民主主義のために投票する用意はありますか? カマラ・ハリスとティム・ウォルズを当選させる用意はありますか?」と呼びかけ、トランプ候補の脅威を警告。「私たちは2020年に民主主義を守ったように、2024年にも守らなくてはならない」と強調した。

この日の登壇者は口々に、ハリス副大統領が検察官出身で、トランプ前大統領が罪状34件で有罪となった重罪人だという対比を強調。また、ハリス氏が生殖に関する女性の自己決定権を保護する一方で、共和党のトランプ候補が再び大統領になればアメリカ全土で人工妊娠中絶が禁止されると警告した。

バイデン大統領は、有権者の多くが重視している経済やインフラ対策についても、民主党政権の実績を強調し、大企業や富裕層ではなく勤労世帯のために闘うのはハリス氏だと訴えた。

「ジョー、ありがとう」

大会初日、最後の登壇者として、娘アシュリー・バイデンさんに紹介されて登場したバイデン大統領は、娘に抱きしめられるとハンカチで両目の涙を拭いてから、演台に向かった。

「みんなジョーを愛してる」と書かれた大量のプラカードを手にした会場の「ありがとう、ジョー!」という盛大な連呼を4分ほど浴びた大統領は、「ありがとう」と繰り返したのち、満面の笑顔を浮かべて娘やジル・バイデン夫人を大きい声でたたえ、「何より大事なのは家族だ」と演説を開始した。

「アメリカ、愛してる!」と叫んだ大統領は、「自由と民主主義のために投票する用意はありますか? カマラ・ハリスとティム・ウォルズを当選させる用意はありますか?」と強調。自分は大統領就任式で国と憲法を守ると誓ったのだと述べ、「自分が勝った時だけ国を愛するなどあり得ない」と、トランプ前大統領を非難した。

大統領は、「今は夏で、冬は過ぎた。民主主義は生き延びた。民主主義は成果を生んだ。民主主義を守らなくてはならない」として、この選挙はアメリカだけでなく世界にとっても決定的な「変曲点」になると述べた。

バイデン氏は自分が2020年大統領選に出馬すると決心する決め手になった、2017年8月のヴァージニア州シャーロッツヴィル暴動に触れ、白人至上主義集団とそれに対抗する人たちが衝突して犠牲者の出た暴動について、当時のトランプ大統領が「どちら側にも素晴らしい人が大勢いる」と発言し広く非難されたことにあらためて言及した。

「(白人至上主義の集団は当時の)ホワイトハウスの様子を見て大いに図に乗って、フードをかぶるまでもないと、堂々と行進していた」と、バイデン氏はトランプ前大統領を非難した。

さらにバイデン氏は、「大統領の仕事はすべてのアメリカ人に結果を届けることだ。私たちのおかげでアメリカはこの4年間で目覚ましく前進した」、「カマラと私はこの4年間、経済を立て直し、雇用を創出し、賃金を引き上げ、インフレを下げ続けた」と力説。「世界最強の経済、世界最強のインフラ」を自分たちは築いたのに対し、「トランプはなにひとつ作らなかった」と述べ、多くの有権者が重視する経済対策での自分たちの成果を強調した。

続けて、「ついに大手製薬会社を倒した」として薬価引き下げ実現を強調し、これもハリス副大統領の尽力によるものだと述べた。

バイデン氏はさらに、「アメリカの大統領経験者を『うそつき』と何度も呼ばなくてはならないなど思いもしなかった」と前置きし、「トランプはアメリカが犯罪だらけなどと、そしてほかのあらゆることについても、うそをつき続けている」、「この国の犯罪は50年以上で最低レベルまで減ったし、今後も減り続ける。有罪の重罪人ではなく、検察官を大統領執務室に送り込めば」と述べた。

また、アメリカの子供の一番の死因は銃犯罪だと述べ、「世界中を回りながらそれを恥ずかしく思う」のだとして、殺傷力の高い半自動小銃の禁止や銃購入者の身元調査強化の必要性を強調した。

バイデン氏はさらに、不法移民対策の超党派合意について議会成立をトランプ候補が阻止したと非難し、多くの有権者が重視する移民問題が解決しないのはトランプ候補が自分の利益を最優先したからだと批判。

そのほか、「投票する自由、愛する人を愛する自由、(出産か中絶かを)選ぶ自由」をハリス氏のもとで民主党政権が引き続き守ると強調した。

続けて、民主党の中でもバイデン政権の対応に多くの批判があるガザ戦争について、「ガザでの戦争を終わらせ、人質を帰還させる」と大統領は強調。「会場の外で抗議する人たちの言い分はもっともだ。罪のない人が大勢、双方で殺されている」と認めたうえで、和平を実現すると言明した。

「アメリカ、私は最善をあなたにささげた」

バイデン大統領は、「残る5カ月でやることはたくさんあるし、実現するつもりだ」と約束し、さらに「皆さんの大統領として仕えるのは人生最高の栄誉だった。この仕事を愛しているが、それよりもこの国を愛している。撤退すべきだと私に言った人たちのことを怒っているなどと言われているが、それは本当のことではない。私はこの仕事よりもこの国を愛している。そして2024年にこの国の民主主義を守らなくてはならない」のだと、自分の大統領選撤退について言及した。

「この国の民主主義を守らなくてはならない。なので皆さんに投票してもらい、上院での多数を維持し、下院での多数を奪還し、なによりもドナルド・トランプを倒さなくてはならない」と大統領が力説すると、会場は大歓声で答えた。

「カマラとティムがアメリカの正副大統領として、経済を成長させ続け、生活費を引き下げ、二人して引き続き大企業の強欲に立ち向かい、巨大製薬会社に立ち向かい、新築住宅を増やして住宅費を引き下げる」とバイデン氏は、候補2人をアピールした。

さらに「彼女はタフで、経験豊富だ。そして非常に誠実だ」とハリス氏の長所を強調し、「多くのすぐれた大統領と同様、彼女も副大統領だった」と笑うと、客席のハリス副大統領も笑ってうなずいた。

最後にバイデン氏は再び連邦議会襲撃事件に言及し、「あの日、私たちはこの国の作るものすべてを失いかけた。その脅威は今も強く生きている。(トランプ候補は)また負けたら、選挙結果を受け入れないと言っている。『大流血』を約束している。初日に独裁者になると、自分で言っている。あいつは本気だ。そんなことにさせてはならない」と警告。「全員に義務がある。2020年に民主主義を守ったように、2024年にも守らなくてはならない」と強調した。

大統領は、「アメリカ、アメリカ、私は自分の最善をあなたにささげた」と思いを込めて語った。この一節は、ノラ・ジョーンズの歌唱で有名になったジーン・シアー作曲「アメリカン・アンセム」からの引用。バイデン氏は2021年1月の就任演説でも、この歌の歌詞を引用している。

バイデン氏は続けて、「自分はたくさんの間違いをしてきたし、上院に入るには若すぎると言われ、大統領として残るには年寄りすぎるとも言われたが」、「29歳で上院議員にえらばれた時よりも、この国の未来を楽観している」のだと強調した。

そしてバイデン大統領は、「私たちはアメリカ合衆国だ。みんなが一緒に取り組めば、私たちにできないことは何もない。皆さんに神の祝福がありますように。そして神がこの国の兵士たちを守りますように」と結んだ。

バイデン氏はこの演説の後、家族と会場を後にし、休暇のためにカリフォルニア州へ移動した。

ハリス氏が異例の初日登壇

バイデン大統領の登壇に先立ち、ハリス副大統領は大会開始から間もなく登壇した。ハリス氏のこの日の登壇は事前に発表されていなかった。

ハリス氏は、バイデン大統領の「歴史的な指導力」や「この国への素晴らしい奉仕」をたたえ、「私たちはあなたに永遠に感謝します」と述べた。

「私たちは闘うし、私たちは勝つ」というハリス陣営のスローガンを連呼する聴衆の大歓声を受けながら、ハリス氏が「私たちは一つの国民として一つの声で宣言する。私たちは前に進むと」と強調すると、会場は大いに盛り上がった。

ハリス氏は、22日の大会最終日に指名受諾演説が予定されている。

「ついにガラスの天井が」とクリントン氏

民主党がハリス氏を史上2度目の女性大統領候補に指名するのを前に、同党から2016年にアメリカ初の主要政党の女性大統領候補になったヒラリー・クリントン元国務長官はこの日、2016年当時と同じように、女性の権利擁護を象徴する白いスーツ姿で登壇した。

大歓声を受けながら「この国も、この会場も、活気であふれている」とクリントン氏は述べ、「アメリカで何かが起きているのが、感じられる」、「私たちがずっと長いこと夢見て、そのために努力してきたことが、実際に起きている」と強調した。

「私たちはみんな一緒で、一番高くて一番固い、ガラスの天井にたくさんのひびを入れてきた」とクリントン氏は述べ、「未来はここにある。私たちの手の中にある」と期待を示した。

「あのガラスの天井の向こう側では、カマラ・ハリスが手を挙げて、合衆国第47代大統領となるため就任の宣誓をしている。みなさん、友人のみなさん、仲間の一人のためにバリアが落ちれば、私たち全員がその先へ行けるようになる」と、クリントン氏はアメリカ初の女性大統領誕生への期待を強く示した。

クリントン氏はさらに、2016年大統領選で激しく争い全国的な票数では勝った選挙人の数で敗れたトランプ前大統領について、今では「自分の裁判で(眠らずに)起きていることもできなかった」重罪人だと強調。かつてトランプ陣営が自分に対して使った「刑務所に入れろ」という連呼を、民主党関係者が繰り返す中、クリントン氏は「今では(トランプ候補が)追われている」とくぎを刺した。

検事と犯罪者

クリントン氏の後に、弁護士でもあるジャスミン・クロケット下院議員(テキサス州)が登壇すると、議員もハリス副大統領とトランプ候補の対比を強調した。

「ひとりは大学時代、マクドナルドで働いていた。ひとりは金持ちの家に生まれて、パパの家業を手伝った。(黒人に対する)住宅差別っていう家業を」とクロケット議員は言い、さらに「彼女は検察官のキャリアを選び、向こうは犯罪者のキャリアに進んだ」、「カマラ・ハリスには経歴があり、ドナルド・トランプには犯罪歴がある」など次々と皮肉った。

検察官出身のジェイミー・ラスキン下院議員(メリーランド州)が登壇すると、トランプ候補の支持者による2021年1月6日の連邦議会襲撃に言及。あの時に議事堂の扉がたたかれる音を自分は忘れられないと述べたうえで、共和党の副大統領候補、J・D・ヴァンス上院議員の名前を呼び、「おい、J・D・ヴァンス、どうしていきなり副大統領候補に空きが出たのか知ってるか? 連中は君の前任者を殺そうとしたんだ」と述べた。連邦議会襲撃では、大統領選の結果を覆そうとしないマイク・ペンス副大統領を暴徒が「裏切り者」と呼び、議事堂内を探し回っていた。

ラスキン議員はさらに、「大統領の仕事は法律が誠実に執行されるようにすることであって、副大統領への死刑を執行することじゃない」とも非難した。

有権者は経済を重視

BBCがアメリカで提携するCBSニュースと調査会社ユーガヴによる18日発表の世論調査では、投票するつもりの全国有権者の支持率ではハリス氏がトランプ候補をわずかに上回っているものの、経済政策を最大の関心事に挙げる有権者の56%がトランプ候補を支持している。同様の有権者でハリス氏に投票すると答えたのは43%。世論調査は今月14~16日にかけて実施された。

一番心配しているのはインフレ率だと答えた回答者のうち、61%がトランプ候補を、38%がハリス氏を支持すると答えた。

回答者のうち、だれに投票するか決めるうえで経済が重要だと答えた人は83%で、インフレが一番重要だと答えた人は76%。

アメリカとメキシコの国境の状態を心配する人の過半数は、トランプ前大統領を支持すると答えた。人種間の平等や多様性、中絶権や民主主義の状態が何より重要だと答えた人の過半数は、ハリス副大統領を支持している。

回答者のうち、投票を決める課題として民主主義の状態が重要だと答えた人は約74%に上る。

(英語記事 'America, I gave my best to you': Emotional Biden embraces Kamala Harris after farewell speech

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cn49lpydq14o


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