2024年8月15日(木)

BBC News

2024年8月15日

オリンピック(五輪)の表彰台にメダルを手に立つことは、アスリートのキャリアの頂点といえる。長年のつらいトレーニング、決意、そして犠牲が、その瞬間に結実する。すべてがいろいろな意味で報われる。

イギリスでは、サッカーのトップレベルを除いて、スポーツ自体で多大な金銭は得られない。ただ、広告やスポンサーから収入を得ることはある。

それが、競技への参加を促すことになると、イギリスの五輪金メダリストはBBCに話す。「少し忘れられている」ような競技の場合は、特にそうだという。

では、オリンピックのメダルは、イギリスのスター選手たちにとって、どれほどの収入をもたらすのだろうか?

スポーツイベント運営会社「En2End」の創業者でディレクターのクレア・ボウデン=ヒューズさんは、五輪でメダルを獲得すれば「アスリートは市場価値が著しく高まる」とともに、グローバルブランドにとっても、より魅力的な存在になると話す。

これがゆくゆくは、スポンサーの獲得と、そこからの支援による大きな収入につながるかもしれない。

リオデジャネイロ、東京、パリで五輪メダルを獲得し、世界選手権や欧州選手権のメダルもいくつも獲得しているイギリスの陸上女子スプリンター、ディナ・アッシャー=スミスさんのような有名アスリートであれば、「契約によって年100万ポンドから1000万ポンド(約1億8800万円から18億8000万円)の収入を得られる」と、ボウデン=ヒューズさんは言う。「例えばナイキ、ウブロ、ミュラーとの彼女の契約は、非常に実入りの大きいものだ」。

自転車・トラック競技のエマ・フィヌケインさん(21)は、パリ五輪で最も有名になったイギリス選手の一人となりそうだ。女子チームスプリントで、世界新記録を出して金メダルを勝ち取ったメンバーの一員だった。さらにケイリンでも銅メダルを獲得。最終日11日にあったスプリントでも金メダルが期待された(結果は3位で銅メダルだった)。

ボウデン=ヒューズさんはフィヌケインさんについて、「最近の活躍と高い知名度を考えると、大きな収入を得る可能性がある」と、スプリントの決勝前に話した。

そして、もし金メダルをもう1個獲得すれば、「彼女の市場価値は急上昇」し、「さまざまなブランドの契約や支援から、年100万ポンドから300万ポンド(約1億8800万円から5億6400万円)の収入を得ることもありうる」と予測した。

ただ、金メダルに限らず、どんな色のメダルだろうと収入増につながると専門家は言う。

まだそれほど名前が知られていない銅メダリストは、金メダリストほど稼げはしないかもしれないが、それでも年1万ポンドから5万ポンド(約188万円から940万円)という相当な額が提示される可能性があると、ボウデン=ヒューズさんは説明。

例として、飛び込み女子シンクロナイズドダイビング10メートルで銅メダルを獲得した、アンドレア・スペンドリーニ=シリエクスさん(英テレビ番組「First Dates」のスター、フレッド・シリエクスさんの娘)を挙げた。

スポンサー契約とマーケティングが専門のコンサルタント、ナイジェル・カリーさんは、選手個人に加え、「競技の種類とその注目度に(収入は)大きく左右される」と話す。

ローイング女子クオドルプルスカルで金メダルを獲得したジョージー・ブレイショーさん(30)は、ブランドからスポンサー契約や支援の申し出はまだないとBBCに説明。もしあれば「素晴らしい」と述べた。

ブレイショーさんには、イギリスの全国的な宝くじ組織から、ローイングの競技団体を通じて、最高水準の年2万8000ポンド(約526万円)が支払われている。また、大会や合宿の費用は競技団体が負担している。それでもスポンサー契約があれば、もう少し「やりやすくなる」と彼女は言う。

「ローイング選手は、個人としてもチームとしても、スポンサー契約でちょっと忘れられている」とブレイショーさんは付け加える。

彼女のチームは「やる気にあふれ」、金銭的な報酬に関係なく勝利を目指しているが、メダル獲得のボーナスがあれば、世間の人々の目にローイングがもっと魅力的なスポーツとして映るかもしれないと、ブレイショーさんは考えている。

彼女は巨額の個人契約を求めているわけではない。スーパーマーケットがスポンサーになり、選手の食料品を支援するようなことがあるといいと話す。

プロスポーツ選手のキャリアは比較的短く、30代やそれ以下で引退する人が多い。そのことも、他の収入源を求めることにつながっている。ファンが少ない競技の選手の場合は、五輪から次の五輪までの間にいかに知名度をアップするかを探ることになる。

オリンピック直後はアスリートへの世間の関心が高まり、テレビ出演や書籍の契約のオファーが考えられる。前出のボウデン=ヒューズさんは、「アスリートの知名度やストーリーによって、1万ポンドから50万ポンド(約188万円から9400万円)以上のオファーになりうる」と言う。

BBCのダンス番組「ストリクトリー・カム・ダンシング」では、多くのオリンピック、パラリンピック選手が、ダンスフロアで踊りを披露している。競泳男子で金メダルを獲得したトム・ディーンさんは、今年の同番組への参加が発表された最新の有名人の一人だ。

同番組には、2012年ロンドン五輪の金メダルでその名がイギリス中に広まった、陸上男子の走り幅跳び選手のグレッグ・ラザフォードさんも出演した。

「彼はあらゆるテレビ番組に出ていた」と、前出のコンサルタントのカリーさんは言う。出演番組には、「マスターシェフ」や「ダンシング・オン・アイス」など、英テレビ界で最も人気のある番組も含まれる。

だが出演料は、体操女子のシモーン・バイルスさんや陸上男子のウサイン・ボルトさんのような、スポーツの能力によって世界的に有名になったスーパースターたちが受け取る報酬に比べれば、微々たるものだ。世界で有名なことは、ブランドにとって大変魅力的であり、そのことが、これらのスポーツ選手を億万長者にした。

米誌フォーブスは、通算11個の五輪メダルを獲得しているバイルスさんについて、2023年に710万ドル(約10億円)を稼ぎ、うち700万ドルはスポンサー契約によるものだと推定している。有名人の資産に関するウェブサイト「セレブリティーネットワース」によると、ボルトさんの推定純資産は9000万ドル(約132億円)に上る。これらの人々はオリンピックの舞台に登場したことで、現在の名声の高みに到達した。

しかし、パリ五輪の陸上女子800メートルで金メダルを勝ち取ったイギリスのキーリー・ホジキンソンさんのような選手に提示されるような高額契約は、過去数十年の五輪選手のものと比べると大違いだ。

1964年東京五輪の陸上女子800メートルで優勝したアン・パッカーさんは、「ハインツの豆製品の広告にぱっと出て(中略)そのあと(牛肉エキスの)ボヴリルと3年契約を結んだ」という。

パッカーさんはBBCラジオ4の番組「トゥデイ」で、「とてもささやかな額の金銭」しか残せなかったと話した。それでも、夫で同じく五輪選手だったロビー・ブライトウェルさんと家を構えるには十分だった。

パッカーさんは五輪での優勝から利益を得るため、22歳で引退した。当時の五輪のルールでは、プロ選手の出場は禁じられていたためだ。

今と違い、そのころは賞品が用意されていた。「とても人気があったのは、ピクニック用のバスケットだった」とパッカーさんは言う。「ティーセット、(耐熱容器の)パイレックスの食器セット、調理器具なんかを手に入れられた。(中略)がっかりするような物よりはましでしょう」。

現在82歳の彼女は、当時は幸せだったと言い、1960年代と2020年代を比べることはできないと話した。そして、それでも変わっていないことが一つあるとした。

「今日競争しているアスリートたちは、私たちがそうだったのとまったく同じように、やる気に燃えているのだと思う」、「金銭ではなく、最高の自分であること、または世界最高であることを証明したいという思いによって」。

(英語記事 What can Team GB medallists hope to earn after their wins?

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c23l47nj1edo


新着記事

»もっと見る