さて、衆議院財務金融委員会での植田総裁の発言にもどろう。市場が開いているなかでの意見聴取という、市場の恐れを知らぬ国会議員たちを前にして、植田総裁は慎重だったと思う。
「8月の金融動揺」の背景には、「米国の景気減速の懸念があった」と述べた。また、内外の資本市場は引き続き不安定であることも認めた。日銀として今後の金利の引き上げについては高い緊張感をもって注視するとした。
東京市場は、株価は小幅な値動きを繰り返したが、終値は前日比153円26銭高の3万8364円27銭、1ドル=145円台で上昇した。長期金利は上昇した。
メディアが追究すべきアベノミクスの真相
メディアは、「8月金融動乱」について、市場に何を聞いたか。
NHK「おはよう日本」は、株価大暴落の翌日朝のニュースで、株価急落について4つの要因を取り上げた。
第1は、米国経済の減速に対する懸念である。第2は円高ドル安の加速である。日銀が植田総裁の7月末の会見でさらなる利上げの可能性を示唆したのに加えて、翌日にはFRBのパウエル議長が早ければ9月の会合で利下げに踏み切ると発言した。
第3は、中東情勢の緊迫化。イランがハマスの幹部がイスラエルによって殺害されたことを受けて、報復の姿勢をみせている。投資家はリスクを避けようと売り注文に走った。
第4は、投機筋の仕掛けである。売り買いの前提条件を細かくプログラムに組み込んだ「高速取引」によって相場が左右されているという見方もあり、株価の急落を助長する要因とみる。
どれも「市場の声」としては間違ってはいない。しかし、そもそもここに至った「アベノミクス」の黒田バズーガの超金利政策の後始末として、今回の金融動乱が起きた大きな原因のひとつではなかったか。
衆議院財務金融委員会が意見を聴取すべきは、安倍晋三元首相が暗殺されて亡きいま、超低金利政策の真相を追究すべきだと考える。
アベノミクスの理論的な主柱だった元内閣官房参与だった、世界的な経済学者である浜田宏一氏が最新刊の文春新書『うつを生きる』で、精神科医師との対談のなかでアベノミクスに至る一端を語っている。この著書の主題は、浜田氏が双極性障害を抱えながらも、研究と教育、そして政策決定の中枢にいたことによる苦悩と喜びを語ることにある。
ここでは、アベノミクスについての浜田氏の見解を紹介したい。
「25年前から現在までの日本経済の歴史をみると、日本経済は必要以上の円高のためにデフレに苦しんできたのです。…円高は日銀が金融緩和すれば止めることができたのに、それを日銀がしなかったために日本は20年ものデフレ景気沈滞が続いたというのがわたくしの(おそらく正しい)意見です。
安倍晋三首相の第二次政権(2012―2020)の功績は、とくに日銀総裁に黒田東彦氏を任命して、それまでの円高にあえぐ日本経済を、金融緩和、円安の方針で救ったことです」
「植田和男日銀総裁は、金融を十分に緩和しなかったために雇用が伸びなかった日銀の負の歴史を重く見ているのでしょう。円安を止めるのに必要な金融引き締めへの方向転換にはとても慎重に舵をとっています」
「引き締め政策を長く続けて円高に誘導し続けたのが、日銀総裁の三重野康、松下康雄、速水優、福井俊彦(彼は金融緩和をかなり効果的に続けたのですが、残念ながらゼロ金利解除を急ぎすぎた。しかも最後に引き締めました)、そして白川方明の各総裁です。…日本が貿易立国を続けるのを完全に阻害し、平成時代の『デフレと沈滞の20年間』をもたらしたのです」