中国は、元々ラテンアメリカ地域においてアルゼンチンを重視してきており、12年にアルゼンチンでの宇宙レーダー基地建設の合意を取り付け、14年に二国間関係を「総括的戦略的パートナーシップ」に格上げした。アルゼンチン側も17年にはアジア投資銀行に加盟し、22年にはフェルナンデス大統領の下で一帯一路構想に参加した。
前政権までのペロン派政権の下で、中国は、多くのインフラプロジェクトへの融資や世界最大規模の通貨スワップでアルゼンチン経済を支え、その見返りとして、世界第3位の埋蔵量を誇るリチウム採掘への投資、中国工業製品の市場の確保といった経済面での利益の確保を目指すと共に、宇宙レーダー基地の増強、マゼラン海峡に臨む戦略上の要所での港湾建設、中国製戦闘機の売り込み等の地政学面での関係強化に努力を重ねて来た。
政治的には一定の距離
中国との経済関係の抑制を公約していたミレイが、大統領就任後このような中国との相互依存関係に理解を深め、対中経済関係を維持する方針に転換したことは確かだが、政治面では必ずしも中国に歩み寄っているわけではない。むしろ、政経分離で中国とは距離を置こうと努めているようにも観察される。
BRICS加盟への招待を断り、他方でNATOのパートナー国としての地位を求めたことが象徴的だ。6月頃にはミレイが訪中するとの報道もあったが、その後実現していない。
ミレイ自身が自由貿易派であり貿易は民間がやることなので政府としては口を出さないとも述べており、中国との貿易拡大についても歓迎はするが冷ややかな態度である。中国側から見て最近の対アルゼンチン関係は決して順調とは言えない。
アルゼンチン経済立て直しに中国による協力が不可欠とする立場からは、政経分離はいずれ経済面でも悪影響を及ぼすのではないかとの懸念もある。しかし、二国間の関係悪化は、アルゼンチンをラテンアメリカ外交の拠点国と位置付けようとしてきた中国の方にむしろ失うものが多く、強硬策は取らないと思われる。
逆にミレイ側は、経済的デカップリングは行わず対中国関係の経済的利益は享受するが、政経分離で政治面では中国寄りの対応は取らず、その限りにおいて政府間で水面下での緊張関係が継続する可能性もあると思われる。