2024年12月26日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年1月23日

 第2の挑戦は、米国に対するものである。米国がアジア太平洋地域へのリバランスを目指していることは広く知られている。リバランスは軍事的な意図に出るものと誤解されているが、経済的・外交的要素を含むものである。米政府関係者は、リバランスは、中国との密接な対話を促すことを強調しているが、中国では、米国の狙いは、中国の興隆を抑え込むことであるとの見方が主流である。中国のADIZ設定は、地域への関与を再び深めようとする米国のリバランス政策に対する挑戦である。ADIZの設定は、何れの国が地域に影響力を持つかという問題に帰着する。中国は、米国の影響力に対抗し、米国を出来るだけ遠くに追いやることを狙っている。

 最後に、中国のADIZ設定は、国際規範に対する挑戦である。国連海洋法条約第2条は、沿岸国の主権は、領海の上空に及ぶとしている。この規定に基づき、ADIZを設定している大多数の国は、自国の領空に向かう航空機に対してのみ飛行計画の提出を求めている。中国は、自国の領空に入る計画の無い航空機に対しても飛行計画の提出を求めることにより、自国の沿岸を遠く離れた空域まで管理し、国際水域の上空を通過する自由を制限している。中国が1998年に排他的経済水域及び大陸棚法を制定した際に、国連海洋法の通常の解釈に反し、軍艦による排他的経済水域での活動を制限しようとした際と同じ手口である。中国は、海上およびその上空における移動の自由を保障している国際規範に対抗していることになる。中国は、領土領海の支配に固執する19世紀的な観念をもつリビジョニスト勢力以外の何物でもないことを曝け出した。

 中国のADIZ設定は、地域の現状を露骨に一方的に変えようとする試みであり、安定を損なうものである。これは、単に、日中間の問題ではなく、中国の東岸に在る全ての隣国、米国、並びに、上空通過の自由に関する国際規範に対する挑戦である。既に緊張の高い東シナ海の情勢が更にエスカレートすることは必至である。結果として、中国と隣国の信頼関係が損なわれ、中国の航空機と他国の航空機の間で誤算が起こるリスクが高まることとなる、と論じています。

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 中国の一方的で横暴なADIZ設定が日・韓・台に対する挑戦、米国に対する挑戦、国際規範に対する挑戦であり、東アジアの緊張を更に高め、誤算によるリスクを高めることを厳しく指摘している良い論調です。

 中国は、今回のADIZ設定により、国際社会を敵に回した結果となり、誤った政策であったと言えます。中国がADIZを直ちに撤回することは期待し難いですが、国際社会として、このように一方的で横暴なADIZ設定を認めることは不可能です。

 国際社会としては、中国の一方的なADIZ設定を厳しく糾弾し、撤回を求めるべきですが、他方、ICAOの活用や「海上連絡メカニズム」のような枠組みを通じて、意図しない衝突や誤算のリスクを減らすための危機管理と信頼醸成措置を実務的に模索する冷静な努力が必要であることも確かです。

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