2024年10月4日(金)

Wedge REPORT

2024年10月4日

日本のスポーツ市場は
さらなる成長が期待できる

 今回の研究は、これまでになかったJリーグクラブの価値評価に関する一つの基準を示したが、需給により市場が形成されるのが現実である。実際にプロスポーツチーム経営に興味を持つ企業や個人オーナーが国内外にどの程度存在するか、Jリーグの成長を投資家や企業がどのように判断しているのかについて、調べていく必要がある。需要と供給、そして、クラブの価値評価の関係を明らかにしていくことで、クラブの価値は高まっていくだろう。産業界がM&Aで価値評価を上げていったように、価値算定をすることで、サッカー界も健全な業界の発展につなげられるはずだ。

 また、クラブとリーグの努力も必要である。特に1993年に発足したJリーグの各クラブは地域密着を掲げ成長しており、親企業がなく、株式は分散保有され、自治体と連携しながら経営しているクラブの方が多い。まだサッカーに特化したスタジアムも少なく、コンテンツバリューが乏しいクラブは経営権を譲渡しても効果が上がらず、経営権交代が実際にうまくいっているケースは少ない。まずはコンテンツバリューを上げていくことが本筋だ。

 例えば、欧州ではスタジアム内のVIPルームを増やし大人の社交場を作り、収益を増やし、クラブの強化費に資金を投ずることで、放映権収入やクラブの価値を高めていった。日本でも同様の努力をする余地はある。また、海外のトップ選手の招へいや魅力あるリーグの仕組み作りも、クラブやリーグの価値を高めるためには必要だろう。欧州最高峰のチャンピオンズリーグの大成功を見ても、欧州から学べることは多い。

 さらに、根拠に基づき正当に企業価値を算定するという考えはサッカー界だけではなく、バスケットボールのBリーグやバレーボールのSVリーグなど、他のスポーツにも応用できる。日本のスポーツ界には350近くのプロあるいはそれに近いクラブチームがある。クラブと統括団体の双方が価値を高めるために努力し、「前向きな経営権交代」が行われる土壌を作ることで、日本のスポーツ市場はさらなる成長が図れるはずと信じている。

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Wedge 2024年10月号より
孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代
孤独・孤立社会の果て 誰もが当事者になる時代

孤独・孤立は誰が対処すべき問題なのか。 内閣府の定義によれば、「孤独」とはひとりぼっちと感じる精神的な状態や寂しい感情を指す主観的な概念であり、「孤立」とは社会とのつながりや助けが少ない状態を指す客観的な概念である。孤独と孤立は密接に関連しており、どちらも心身の健康に悪影響を及ぼす可能性がある。 政府は2021年、「孤独・孤立対策担当大臣」を新設し、この問題に対する社会全体での支援の必要性を説いている。ただ、当事者やその家族などが置かれた状況は多岐にわたる。感じ方や捉え方も人によって異なり、孤独・孤立の問題に対して、国として対処するには限界がある。 戦後日本は、高度経済成長期から現在に至るまで、「個人の自由」が大きく尊重され、人々は自由を享受する一方、社会的なつながりを捨てることを選択してきた。その副作用として発露した孤独・孤立の問題は、自ら選んだ行為の結果であり、当事者の責任で解決すべき問題であると考える人もいるかもしれない。 だが、取材を通じて小誌取材班が感じたことは、当事者だけの責任と決めつけてはならないということだ――

 


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