2024年11月23日(土)

Wedge REPORT

2024年10月4日

 なお、過去には黒字にこだわる「profit maximize」か、勝利にこだわる「win maximize」のどちらを追求すべきかで激論が交わされたが、「profit maximize」はチーム成績の停滞を招き、最大の収入である放映権収入の喪失とともにクラブのブランド価値を毀損し企業価値を失っていくというのが欧米の定説である。

 実際、プレミアリーグは2011年に8クラブが黒字となり話題となったが、創設以来全クラブの収支がプラスだった年はない。Jリーグにおいても、トヨタや日産、パナソニック、日立など、名だたる親企業がクラブを経営しているが、「profit maximize」に徹しているクラブはほとんど見られない。これは筆者もクラブ経営に携わり身に染みて感じた。

売上高の乗数で評価される
クラブの価値

 では定評を得ている評価手法は何か。結論から言うと、売上高が基準になっており、概ね売上高の乗数でクラブの価値評価がされていることが分かった。金融用語では、「Revenue Multiple」と呼ばれる。実際の取引では公認会計士事務所が入りデューデリジェンス(投資対象への調査)を進め、財務データが明らかにされるので、売上高しか分からないからという消極的な理由ではない。むしろこの手法はテックベンチャーなど、右肩上がりの業種や会社において用いられる手法である。

 欧米のプロスポーツは成長をほぼ約束されている、すなわち、成長期待が非常に高い市場と見なされてきたとも言える。

 球団やクラブ毎に概ね売上高×〇倍と価値評価されているが、その乗数を決める要素には何があるか。また、その他の指標は関連しているのか。筆者の研究室では、データを入手しやすい欧州サッカーにフォーカスし、実際に欧州で決定した取引価格を被説明変数、過去の文献で挙げられている要素(売上高、選手の市場価値、スタジアム保有の有無、選手の人件費比率など)を説明変数の候補として、過去3年の全データを用いて重回帰分析を行った。その結果、売上高のみの単回帰でも、ある程度正確な数字にはなったが、より正確に取引価格を示す算定式(モデル)が2つ導出された。

 Jリーグにおける過去のクラブ売買時の取引価格について、データが入手可能な事例を基にその決定方法を推定すると、全てが額面金額、または、純資産がベースとなっている。一方、2つの算定式を用いてJリーグ全60クラブの企業価値を推定すると、いずれも過去の実際の取引額を上回り、クラブの価値が過小評価されていることが分かった。

 先述した説明変数のうち、どの要素を当てはめるのが妥当なのか試行錯誤した結果、売上高の他に、SNSのフォロワー数や選手の市場価値金額を入れると企業価値を表すのに説得力の高い算定式ができたことは興味深かった。なお、2つの算定式を適用すると、欧州クラブではほぼ同一の取引価格が算出されるが、日本では互いに大きく異なる価格が示される(右表)。もちろん算定式に含めるべき変数やそれぞれの係数は毎年変わるため、定期的な更新が必要だが、現時点では「売上高に対して選手市場価値が非常に低いのがJリーグの特徴」だと示唆される。


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