2024年10月1日(火)

BBC News

2024年10月1日

マーク・ポインティング(気候・環境リサーチャー)、エズミ・スタラード(気候・科学記者)

イギリスが9 月30日、石炭火力発電を廃止し、142年にわたる石炭への依存に終止符を打った。

1967年から稼働してきた国内最後の石炭発電所のラトクリフ・オン・ソア発電所がこの日、運転を終了した。

これは、石炭による気候変動への影響を減らすという、イギリスの野望において大きな節目となる。

石炭は、燃焼時に多くの温室効果ガスを発生させる、最も汚い化石燃料とされている。

マイケル・シャンクス・エネルギー相は、「我々は、国として何世代にもわたって(石炭に)恩義を感じている」と述べた。

イギリスは石炭火力発電発祥の地だが、主要国で初めて石炭火力発電を廃止した。

イギリスで最も長く環境相を務めたディーベン卿は、「本当に素晴らしい日だ。イギリスは石炭によって産業革命で国力を築き上げたのだから」と語った。

世界初の石炭火力発電所であるホルボーン・ヴァイアダクト発電所は、発明家トーマス・エジソンによって1882年にロンドンに建設され、街に明かりをもたらした。

その時から20世紀前半まで、石炭がイギリスの電力のほとんどすべてを供給し、家庭や企業のエネルギー源となっていた。

1990年代初頭にはガスに押され始めたが、その後も20年間、石炭はイギリス送電網の重要な構成要素であり続けた。

2012年時点でも、イギリスの電力の39%を石炭が発電していた。

再生可能エネルギーの成長

気候変動をめぐっては、科学的根拠が蓄積されている。温室効果ガスの排出削減が必要なことは明らかで、最も汚れた化石燃料である石炭は主要なターゲットだった。

2008年、イギリスは初めて法的拘束力のある気候変動目標を定め、2015年には当時のエネルギー・気候変動担当相だったアンバー・ラッド氏が、イギリスは今後10年以内に石炭火力の使用を終了すると世界に宣言した。

独立系エネルギー・シンクタンク「エンバー」のグローバル・インサイト・ディレクターを務めるデイヴ・ジョーンズ氏は、石炭業界に明確な方向性を示すことで、石炭の終焉(しゅうえん)に向けた 「動きをスタートさせる」一助になったと述べた。

前出のディーベン卿は、イギリスがリーダーシップを発揮し、他国が従うべき基準を示したということでもあると述べた。

「これは大きな違いだ。なぜなら、『あちらはやったのに、どうして私たちにはできないのか?』と言える対象が必要だからだ」

イギリスの再生可能エネルギーによる発電量は、2010年には全体のわずか7%だった。これが2024年前半には50%以上に増加し、最大記録を更新した。

グリーン電力の急速な成長は、2017年に初めて発電で石炭を使用しない日を実現させ、短期間に石炭火力発電を完全に止めることまで可能にした。

再生可能エネルギーの成長は目覚ましく、石炭火力発電終了の目標日が1年前倒しされるほどだった。

クリス・スミスさんは28年にわたって、ラトクリフ・オン・ソア発電所の環境・化学チームで働いていた。スミスさんは、「(30日は)とても重大な日だ。この発電所は常に稼動してきて、私たちはそれを続けるために最善を尽くしてきた。(中略) とても悲しい瞬間だ」と話した。

イギリスの炭鉱は、マーガレット・サッチャー政権の時期に多くが閉鎖され、労働者数千人が職を失った。同政権で閣僚を務めていたディーベン卿は、化石燃料産業で働く現在の労働者のために、そこから教訓を学ばなければならないと述べた。

「現在の政府、そして実際には前政府が、今回の変化によってダメージを受ける場所に新しい雇用、つまり非常に多くのグリーン雇用を確実にもたらそうとしていることに、私は特に注目している」

「北海の油田帯は、まさに炭素回収・貯留を行うべき場所であり、風力や太陽光による発電をすべき場所だ」

今後の課題は

石炭は非常に汚染度の高いエネルギー源だが、その利点は、天候によって制限される風力や太陽光とは異なり、いつでも利用可能であることだ。

イギリスの電力システム監督機関「エネルギー・システム・オペレーター」のケイティー・オニール最高執行責任者(COO)は、「送電網の安定性を確保するためには、さまざまな技術革新が必要だ。安全な方法で明かりをともし続けるために」と話した。

オニールCOOが語った安定性をもたらす重要な技術とは、バッテリー技術のことだ。

英ファラデー研究所の研究プログラム・マネージャーであるシルウィア・ワルス博士は、バッテリーの科学は大きく進歩していると語った。

「新しい技術を生み出す余地は常にあるが、最近では、より持続可能で、安価な生産をいかに実現するかに焦点が当てられている」と、ワルス氏は話した。

一方で、これを達成するためには、イギリスはバッテリーを自国生産して中国への依存度をもっと弱めると同時に、熟練労働者を呼び込むことが必要だと指摘した。

(追加取材:田中美保、ジャスティン・ロウラット)

(英語記事 UK to finish with coal power after 142 years

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cd7x252d2z9o


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