2024年10月2日(水)

BBC News

2024年10月2日

ウィリアム・マクレナン、フィル・シェプカ、ジョン・アイアンモンガー、BBCイングランド調査報道チーム

イギリスのマクドナルドの店舗と、大手スーパー向けのパン製品の製造工場で、現代の奴隷制ともいえるかたちで人々が働かされているサインがありながら、何年も見過ごされていたことが、BBCの取材でわかった。

被害者16人はギャング集団によって、マクドナルドや工場での労働を強いられていた。問題の工場は、アズダ、生協、M&S、セインズベリー、テスコ、ウェイトローズといったスーパーのパンを作っていた。

4人の賃金が一つの銀行口座に振り込まれるなど、奴隷労働を強くうかがわせる事象があったものの、見過ごされてきた。そのため、チェコ出身の被害者らの搾取は4年以上続いた。

取材に対し、マクドナルドのイギリス法人は、「潜在的リスク」発見のためのシステムを改善したと説明した。一方、英小売協会は、今回の事案から協会員が学ぶとした。

人身売買のネットワークは、チェコの家族によって運営されてきた。メンバーのうち6人は、新型コロナウイルス流行の影響で遅れていた刑事裁判2件で有罪となった。

この事件の多くは、報道規制により報じられてこなかった。しかし、BBCイングランドは今回、ギャング集団の犯罪の全容と、それを止める機会があったのに生かされなかった実態を明らかにする。

被害者の9人は、ケンブリッジシャー州キャクストンのマクドナルドの店舗で働かされていた。また、ハートフォードシャー州ホッデスドンとロンドン北部トットナムに工場を持ち、スーパーの自社ブランド製品を製造するピタパンの会社でも9人が働いていた。両方で働いていた人物が2人いたため、被害者は全員で16人だった。

被害者らは全員、社会的に弱い立場にいた人たちで、ほとんどがホームレスや依存症を経験していた。労働によって少なくとも法定最低賃金は得ていたが、ほぼ全額をギャングに奪い取られていた。

雨漏りのする小屋や暖房のないトレーラーハウスなどの狭い場所で、1日数ポンドで生活していた。警察の捜査では、被害者らの賃金がチェコでギャングによる高級車、金の宝飾品、不動産などの資金となっていたことが判明した。

被害者は何度か自宅に逃げ帰ったが、探し出され、イギリスに戻された。

この搾取は2019年10月に終わった。被害者がチェコの警察に連絡し、そこからイギリスの警察に伝わったためだった。

だが、BBCがギャングの裁判の文書を検証し、被害者3人の話を聞いた結果、犯罪が行われていたことを示すサインが少なくとも4年間、見過ごされていたことが明らかになった。

それら見過ごされた危険信号には、以下のものがある。

被害者らの給料が、他人名義の銀行口座に振り込まれていた。マクドナルドでは、少なくとも4人の被害者の給料(総額21万5000ポンド=約4000万円)が、ギャングが管理する一つの口座に振り込まれていた。

被害者らは英語を話すことができなかった。求人に対する申し込みはギャングのメンバーが行い、そのメンバーは面接に通訳として同席することもできた。

被害者らはマクドナルドで、極端に長い時間(週最大70~100時間)働いていた。被害者の一人は30時間連続のシフト勤務をしていた。国連の国際労働機関(ILO)は、過度な超過労働は強制労働の指標だとしている。

複数の労働者が同じ住所を登録していた。被害者のうち9人は、パン工場で働きながら、ロンドン北部エンフィールドにある同じテラスハウスに住んでいた。

独立した立場で調査などに当たる英政府の反奴隷コミッショナーを務めたサラ・ソーントンさんは、BBCの調査結果をみて、「これほど多くの危険信号が見逃され、弱い立場の労働者の保護のために会社側が十分なことをしなかった可能性があることを、本当に憂慮している」と述べた。

ケンブリッジシャー警察の捜査を指揮したクリス・アコート部長刑事は、早期に奴隷労働に気づき、当局に通報する「大きな機会」があったのに生かされなかったと述べた。

「警察が認識していれば、搾取をもっと早く終わらせることができただろう」

多くの被害者と同様、パヴェルさんも2016年にチェコでギャングから接触を受けたとき、ホームレスだった。今回の取材で彼は、匿名でいる法的権利を放棄した。

パヴェルさんによると、イギリスで高給の仕事に就けるという偽りの約束で誘われたという。彼は当時、イギリスで合法的に働くことができた。

しかし、パヴェルさんが経験した現実は、永続的な傷を彼に残したという。

「メンタルヘルスへのダメージは消せない。いつまでも私の中にある」

彼はマクドナルドで週70時間働いたが、搾取者らから渡されたのは、1日当たりわずか数ポンドの現金だけだったという。

警察によると、ギャング集団は「アーネスト」と「ズデネク」というファーストネームをもつ「ドレヴェナク兄弟」が率いていた。被害者全員からパスポートを奪い取り、恐怖と暴力によって被害者らを支配していたという。

「みんな怖がっていた」とパヴェルさんは話した。「家に逃げ帰っても、町には(アーネスト・ドレヴェナクの)仲間がたくさんいる。町の半分は彼の仲間だった」。

ロンドン警視庁のメラニー・リリーホワイト警部によると、ギャング集団は「被害者らを家畜のように扱い」、「生き続けさせる」のに必要な分だけ食べ物を与えていたという。

また、被害者らは監視カメラで監視され、電話もインターネットも使えないなど、「見えない手錠」でしばられていた。英語を話すこともできなかったという。

「外界から本当に切り離されていた」と同警部は言った。

ギャングらはその後、裁判で有罪とされた。だがパヴェルさんは、マクドナルドにも責任があると考えている。

「マクドナルドは行動を取らなかったので、部分的に私を搾取したと感じている」

「マクドナルドで働いていれば、会社はもう少し注意を払い、(悪事に)気づくだろうと思っていた」

被害者らと一緒に働いていた2人は、被害者らの極端な長時間労働と、それによって被害者らが受けた影響は明らかだったとBBCに話した。

キャクストンの道路「A428」沿いにあるマクドナルドは、ほとんどの店と同様、フランチャイズ店舗だ。巨大ファストフードのマクドナルドに金銭を支払っている別の企業が、店舗を経営している。

そこで被害者らが働いていた2015~2019年には、異なる2者がフランチャイズ契約を結び、店舗を経営していた。BBCは両者に連絡を取ったが、応答がなかった。

マクドナルドのイギリス法人は、BBCのインタビューの申し込みを断った。だが、同社およびフランチャイズ契約者を代表して声明を出した。

それによると、現在のフランチャイズ契約者のアフメット・ムスタファさんは、警察および検察に協力する過程で、「この恐ろしく、複雑で、巧妙な犯罪の全容を知った」という。

同社はまた、すべての従業員を「深く」気にかけており、フランチャイズ契約者と協力しながら、「政府、NGO(非政府組織)、そしてより広い社会とともに、現代の奴隷制という邪悪との闘いを支援する一翼を担っていく」と約束した。

さらに、2023年10月に独立した検証を依頼したと説明。「共有された銀行口座、過度の労働時間、面接における通訳の使用の見直しなど、潜在的なリスクを検知して抑止する」能力の向上のため措置を講じたとした。

一方、被害者らが働いていたパン製造会社「スペシャリティー・フラットブレッド」は事業を停止し、2022年に破産を申請した。

被害者らが工場で勤務していた2012年から2019年の間、奴隷労働に気づいたスーパーはなかった。

前出の元反奴隷コミッショナーのソーントンさんは、各スーパーが「かなり徹底的なデューデリジェンス(適正評価)」をしていると思っていたと述べた。そして、普通であれば「自社ブランドの商品には自分たちの評判がかかっているため、より大きな注意を払う」のが普通だと付け加えた。

セインズベリーは、自社ブランドのサプライヤーとしてスペシャリティー・フラットブレッドを使用するのを2016年にやめたと説明した。

その他の企業がやめたのは、警察が被害者らを助け出した2019年以降でしかなかった。

アズダは「私たちのサプライチェーンで歴史的な事例が発見されたことに失望している」、「確認されたすべての事例を見直し、学んだことを基に行動する」とBBCに表明した。

同社は販売現場を3回視察したが、食の安全のみに焦点を当てていたと説明。問題の工場の使用は2020年に停止したとした。

テスコは、奴隷労働に反対する慈善団体「アンシーン」からの情報支援を受け、検査を実施。「懸念すべき労働慣行が明らかになった」といい、2020年に「問題のサプライヤーからの注文をすべて中止した」という。

ウェイトローズは、監査によって「工場の水準と労働条件についての懸念」が浮かび上がったため、2021年に手を引いたとした。

生協は、従業員への聞き取りを含む抜き打ち検査を「何回も」実施したが、現代の奴隷労働を示すものは目にしなかったと説明。そのうえで、「イギリス内外で(中略)衝撃的な問題への対策に積極的に取り組んでいる」とした。

M&Sは、「現代奴隷ヘルプラインを通して、倫理的な労働基準に違反している可能性に気づいた」ため、2020年にスペシャリティー・フラットブレッドとの取引をやめたとした。

英小売協会は、労働者の福祉は小売業者にとって「基本」であり、懸念が提起されれば迅速に行動すると表明。

「とはいえ、小売業界が今回のような事例から学び、デューデリジェンスを継続的に強化することが重要だ」とした。

スペシャリティー・フラットブレッドのアンドリュー・シャラランブス取締役は、書面によるコメントの求めには応じなかったが、BBCからの電話取材に対し、警察と検察を支持していると述べた。また、同社について、「一流の法律事務所による徹底的な監査」を受けているとし、「私たちがしていることはすべて合法だった」と付け加えた。

同取締役はさらに、「私たちの見解では、私たちはいかなる法律違反もしていない。とはいえ、ある種の明白なサインなどはあったかもしれない。しかしそれは、最前線で対応する人事部が対応すべき問題だっただろう」と述べた。

イギリスの現代奴隷法は、マクドナルドやスーパーを含む大企業(工場は含まれない)に対し、奴隷労働の問題への取り組みをまとめた年次報告書の公表を義務づけている。

2015年に内相としてこの法律を導入したテリーザ・メイ元首相は、今回の事件で法律は被害者らを守ることができなかったと認め、「強化」が必要だとしている。

現在、「現代の奴隷制と人身売買に関する世界委員会」を率いる元首相は、この事件を「率直に言って衝撃的」だとし、「大企業がサプライチェーンを適切に調査していない」ことを示していると述べた。

元首相によると、同世界委員会では「企業による行動を確実にするために」どのような新法が必要か、検討を進めているという。

今回の事件について政府は、「現代の奴隷制の問題に関して次のステップを開始する」とした。

また、「あらゆる形態の現代の奴隷制に対処していく」と表明。「あらゆる手段でギャングや雇用主を追及するとともに、被害者が必要な支援を確実に受けられるようにする」とした。

追加取材:メアリー・オライリー、マリア・イヴスタフィワ

(英語記事 McDonald’s and supermarkets failed to spot slavery

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c78d419wyg2o


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