イスラエルは1日、イランがイスラエルに向けて180発以上のミサイルを発射する大規模攻撃を実行したと発表した。中東地域で全面戦争の懸念が一段と強まっている。
イスラエル各地でこの日午後7時半ごろ、空襲警報のサイレンが鳴り響いた。イスラエル国防軍(IDF)は、イランからミサイルが発射されたとして警戒を呼びかけた。
それから数分以内に、エルサレムでは大きな爆発音が聞こえた。頭上をミサイルが飛び、イスラエルの防空システムが迎撃した。
ソーシャルメディアに投稿された動画には、ミサイルがイスラエル上空を通過する時の光や、ミサイルが迎撃や着弾で爆発した際の煙が映っていた。
テルアヴィヴとエルサレムでは、夜空がミサイルの爆発で照らされる前に、何百万人もが避難所に駆け込んだ。救急隊によると、2人が破片で軽いけがを負った。
イスラエル軍は、アメリカの支援を受けてミサイルのほとんどを迎撃したが、「少数の直撃」があったと発表した。また、「危険なエスカレーション」だとしてイランを非難し、「結果」に直面することになると警告した。
イスラエル軍のダニエル・ハガリ報道官は声明で、「私たちの防衛力と攻撃力は最高レベルの準備ができている。作戦計画も準備万端だ」、「政府の指示に従い、どこでも、いつでも、どのような形でも対応する」とした。
この攻撃で、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸でパレスチナ人男性が殺害された。また、イスラエル中部の学校とテルアヴィヴのレストランが被害を受けた。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、イランが「今夜大きな過ちを犯した。その代償を払うことになる」と述べた。
このミサイル攻撃の何時間か前には、イスラエル軍がレバノン南部への地上侵攻を開始していた。同軍は、イスラエル北部の住民にとって脅威となっている「ヒズボラ・テロの標的」を、国境沿いのレバノンの村々から消し去るのが目的だとしている。
イスラエルは、パレスチナ自治区ガザ地区での武装組織ハマスとの戦争が始まって1年近くがたつなか、ハマスと連帯するレバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラへの攻勢を強めている。イスラエルは、ヒズボラのロケットやドローン(無人機)、ミサイルを使った攻撃によって避難しているイスラエルの国境地帯の住民を、安全に帰宅させることを目的に挙げている。
ハマスとヒズボラは共に、イランの支援を受けている。
イランは「自国防衛の正当な権利」
一方、イランの革命防衛隊(IRGC)は、機密度の高い「安全保障と軍事」センターを狙って、多数の弾道ミサイルを「占領地の中心部」に向けて発射し、命中させたとする声明を発表した。
この攻撃については、「国家の自国防衛の正当な権利に沿ったもの」だったと主張した。
また、イスラエルがヒズボラやハマスの指導者、イランの司令官らを殺害したことに対する報復だとした。イスラエルによる先月27日のレバノン南部への空爆では、ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師が殺害されている。
IRGCはさらに、イスラエルがこの攻撃に応じれば、「壊滅的な打撃に直面することになる」と警告した。
イランの国営メディアはその後、同国のミサイルがイスラエルのネヴァティム、ハズテリム、テル・ノフの各空軍基地や、ネツァリムのイスラエル軍戦車(ガザ中部でイスラエル軍が使っている軍事回廊を指しているとみられる)、アシュケロンのガス施設などを攻撃したと伝えた。
イランのマスード・ペゼシュキアン大統領は1日、イスラエルへの攻撃の正当性を主張し、イスラエルに警告を発した。
ペゼシュキアン大統領はソーシャルメディアで、「イランと地域の平和と安全」を目的とするイランの「正当な権利」に基づき、「イランの利益と市民を守るために」イスラエルに対して「断固とした」対応を取ったと説明した。
また、イスラエルのネタニヤフ首相に対し、「イランは戦争屋ではなく、いかなる脅威にも断固として立ち向かう」ことを知るべきだと述べた。
さらにイスラエルに対し、今回の攻撃はイランの能力を「垣間見せた」だけであり、イランと「衝突」すべきではないと警告した。
イラン議会の国家安全保障・外交政策委員会のエブラヒム・アジジ委員長は、同国の国営テレビで、今回の攻撃は第1波だと述べた。
アジジ委員長は、イスラエルの「軍事拠点と施設が標的だったが、誤算の可能性から民間人も攻撃されたかもしれない」と述べた。
その上で、もしイスラエルが再び「間違いを犯す」なら、「さらに破壊的な」第2波が起こるだろうと述べた。
イラン軍のモハマド・バゲリ統合参謀総長は、イスラエルがイランに対してこれ以上の報復行動を取った場合、イスラエルのインフラを標的にすると脅した。
バゲリ氏は、「もし(イスラエルが)このような犯罪を続けたり、我々の主権と領土保全に対して何かをしようとしたりした場合、今夜の作戦は数倍強力に繰り返され、すべてのインフラが標的にされるだろう」と述べた。
イランによるミサイル発射を受け、同国の首都テヘランの通りでは祝賀ムードが広がった。
多くの人が路上に出て、イランとヒズボラの旗を掲げた。ナスララ師の肖像を手にする人もいた。
一方、ガザ地区でイスラエルと戦っているハマスは、イランのミサイル攻撃を「英雄的」と称賛。「占領されている広範囲にわたる我々の土地に対する」ロケット弾の発射を「祝福する」との声明を出した。
一方、イスラエルの友好国はこの攻撃を非難している。アメリカのジョー・バイデン大統領は、イスラエルを「全面的に支持する」と表明した。
国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「中東における紛争の拡大」を非難。「これは止まらなければならない。絶対に停戦が必要だ」と訴えた。
日本の石破茂首相は2日、「攻撃は認められるものではなく、厳しく非難したい」と発言。「全面戦争に拡大することがないように(アメリカと)よく連携を取り、事態の沈静化に共に努めていきたい」と記者団に述べた。
米高官は「攻撃の効果はなかった」
今回の攻撃は、米ホワイトハウス高官が記者団に対し、イランが間もなくミサイルを発射する準備を整えているとみられると述べてから約1時間後に始まった。
ジェイク・サリヴァン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は攻撃について、「イスラエルの航空機や戦略的軍事資産への被害は把握していない」とホワイトハウスで記者団に説明。
「要するに、現時点でわかっていることから判断すれば、この攻撃は失敗し、効果はなかったようだ」と述べた。
また、この攻撃を「重大なエスカレーション」と非難。「私たちは、この攻撃には結果が、厳しい結果が伴うと明確にしてきた。実際にそうなるよう、イスラエルと協力していく」とした。
一方、米中央軍司令部は、戦闘機F-16とF-15Eと攻撃機A-10の飛行隊3個が中東に到着しつつあり、飛行隊1個がすでに到着していると発表した。
米国防総省は先週末、空母エイブラハム・リンカーン打撃群に、「侵略を抑止する」ため、中東にとどまるよう命じている。
イギリスのジョン・ヒーリー国防相は1日、イギリス軍がイスラエル支援に再び関与したことを認めた。
詳しい情報は公表されていないが、BBCのクリス・メイソン政治編集長は、英軍の戦闘機が関与したとの情報があると伝えた。
また、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、イスラエルの安全保障に対する自国のコミットメントを示すため、フランス軍が中東に「動員」されたと述べた。
マクロン大統領は一方で、「レバノン国民とその機関を支援する会議」の開催を約束し、イスラエルに対し、同国での軍事行動を「できるだけ早く」停止するよう求めた。
4月にも多数のミサイルを発射
イランは4月にも、シリアのイラン公館が攻撃され数人の司令官が殺害されたことへの報復だとして、イスラエルに向けて300以上の無人機とミサイルを発射した。
そのほぼすべては、イスラエルやアメリカ、その他の西側同盟国、アラブのパートナー諸国によって撃墜され、イスラエル南部の空軍基地は軽微な被害で済んだ。
イスラエルはこれに対し、イランの空軍基地をミサイルで攻撃。西側各国は自制を求めた。
イランの最高指導者アリ・ハメネイ師は先月28日、側近のハッサン・ナスララ師の殺害について、必ず報復すると約束していた。詳細は明らかにしなかったが、「この地域の運命は、ヒズボラを筆頭とする抵抗勢力によって決定される」と述べていた。
イランは中東全域に武装組織のネットワークを構築している。それらの組織はすべて、アメリカとイスラエルに反対の立場で、自らを「抵抗の枢軸」と呼ぶこともある。ヒズボラやハマスのほか、イエメンのフーシ派、イラクとシリアのシーア派民兵組織などがある。
(英語記事 Iran launches more than 180 ballistic missiles at Israel/Live Reporting)