2024年10月8日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年10月8日

 また、米国政府は中国のように、東南アジアの採算性の低いプロジェクトに投資するよう民間企業に指示できない。 中国の投資は地政学的配慮で決まる可能性がある。インドネシアのジョコ大統領の側近によると、彼はインフラ整備への中国の後ろ盾を失うことを恐れて、南シナ海や新疆ウイグル自治区における中国の行動に対する批判に消極的だという。

 つまり、民間投資だけでは、アジアにおける米国の経済的影響力の低下を防ぐことはできない。米国には量的にも質的にも明確な優位性はない。中国のように資本を政治資本に変えることもできない。

 より効果的なことは何であろうか。バイデン大統領は、トランプと同様に、オバマが署名した貿易協定である環太平洋パートナーシップ(TPP)に「ノー」と言っている。カマラ・ハリスも長い間、このような協定に懐疑的だった。しかし、世界最大の市場へのアクセス拡大という提案だけが、この地域における米国の影響力の低下を逆転させる見通しを示している。

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ASEANへの米国関与のハードル

 この記事は、①Lowy Instituteの最新報告書によると、米国は貿易面での劣勢を補うため、東南アジアへの最大の投資国は米国であると喧伝してきたが、過去10年の実績は、中国の2180億ドルの投資に対し、米国は1560億ドルであった。②中国からの投資の質は、高速鉄道や港湾整備等に加え、AIのデータセンターや電気自動車(EV)のサプライチェーンなど質の高い投資が増えている。③採算性のない案件であっても中国は政治的配慮から投資実施に動く。④これらを勘案すると、米政府は「実利」を重視する東南アジア関係者を引き付けるために、世界最大米国市場へのアクセスを高める方途を真剣に検討すべき、と主張している。

 この主張は正論だが、これを実現するための政治的・経済的ハードルは、ますます高くなっている。

 その理由は、①第一に、TPPの代替策として米が提唱したインド太平洋経済枠組み(IPEF:日米豪NZ韓、ASEAN7カ国、インド、フィジーの14カ国が参加)の作業が進展し、交渉目的であった4つの分野の内、既に稼働している「供給網の協定」に加え、脱炭素を目指す「クリーン経済協定」と汚職・脱税を防ぐ「公正な経済協定」の二つの協定が、漸く10月10日頃に発効する見通しであるのに対して、残る「貿易」分野(関税の引き下げや撤廃は扱わない)は交渉の目途は立っていない。

 ②第二に、中国の過剰生産に起因する安価な製品輸出(EV車、鉄鋼製品、太陽光パネル等)に対する欧米諸国およびブラジルなどにおける「アンチ・ダンピング関税」の導入が世界的に広がっており、市場のアクセス向上を持ち出すのは政治的に容易でないと思われる。


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