ドナルド・トランプ前大統領の妻、メラニア・トランプ氏が、人工妊娠中絶の権利を支持する共和党の元ファースト・レディーたちの長い列に加わったようだ。中絶の規制を進めている夫たちの公の意見と対立することになる。
メラニア氏は3日に公開した、近く発売になる回顧録を宣伝する短い動画の中で、女性の「個人の自由」を支持する姿勢を示し、それを「すべての女性が生まれながらにして持つ不可欠な権利」だと説明した。
この前日には、この回顧録の一部が新聞報道で公開された。それによると、メラニア氏はさらに明確に、「プロ・チョイス(選択支持=中絶権支持)」の立場を取っているという。
この問題に対するメラニア氏の姿勢は、女性の中絶権を合憲としてきた「ロー対ウェイド」判決を覆すのに尽力したとされる夫トランプ候補の立場とは対照的であるように見える。米連邦最高裁は2022年この判決を覆した。
しかし一方で、メラニア氏の態度は、1973年に「ロー対ウェイド」判決が出て以来、合法的な中絶へのアクセスは保護されるべきだと発言してきた共和党のファースト・レディーたちの、数十年にわたる伝統に従うものでもある。
ジェラルド・フォード元大統領の妻ベティー・フォード氏は1975年、まだホワイトハウスにいる頃に、「ロー対ウェイド」判決を「素晴らしい、素晴らしい判決」だと称賛した。
ナンシー・レーガン氏は、夫のロナルド・レーガン元大統領が退任するまで、「女性の選択を信じる」と公に発言することはなかったが、この問題に関するナンシー氏の立場は、ホワイトハウス内でよく知られていたという。
ジョージ・H・W・ブッシュ元大統領の妻バーバラ・ブッシュ氏と、ジョージ・W・ブッシュ元大統領の妻ローラ・ブッシュ氏も同様で、夫たちがホワイトハウスを去った後に、この問題に対する姿勢を明らかにした。
ローラ・ブッシュ氏は2010年、自伝の宣伝のインタビューで、「中絶が合法であることが重要だと思う。医療上の理由やその他の理由から、人々にとって重要だと思うからだ」と語った。
だが、メラニア氏のアプローチは異なっていた。
夫が再選目指す中、「正反対」の見解示す
メラニア氏は3日、X(旧ツイッター)に投稿したモノクロの動画の中で、「女性が生まれながらに持つこの重要な権利、すなわち個人の自由に関しては、妥協の余地はない」と述べた。
「『私の体、私の選択』とは、本当はどういう意味を持つのか?」と、メラニア氏は続けた。
英紙ガーディアンはこの前日、8日に発売予定のメラニア氏の新著「メラニア」からの抜粋を掲載した。
ガーディアンが引用した抜粋部分で、メラニア氏は次のように書いている。「女性が、政府からの介入や圧力を受けずに、自身の信念に基づいて、子どもを持つかどうかを決定する自主性を保証することが不可欠だ」。
「なぜ自分の体について何をしようと決める権利を、その女性自身以外が持つべきなのだろうか? 女性の基本的な権利である個人の自由、つまり自分の人生に対する自由は、本人が望めば妊娠を中絶する権利を認めるものだ」
「望まない妊娠を中絶するかを選択する女性の権利を制限することは、自分の身体を自分で管理することを否定するのと同じことだ」
「私は大人になってからずっと、この信念を持ち続けてきた」
ジャーナリストで「First Women(大統領夫人たち)」の著者であるケイト・アンダーセン・ブロウワー氏は、メラニア氏の書いた内容に「ショックを受けた」と話した。
「あまりにショックだったので、本当なのか確かめたくなった」とブロウワー氏は言った。「メラニア氏は夫と非常に似ている。それなのに、この問題を気にかけているようなのに、それを夫が台無しにするのを長年見てきたというのか」。
ブロウワー氏はまた、メラニア氏の発言は、他のファースト・レディーたちと比べても、この問題に対する夫の姿勢と「正反対」に見えると述べた。
そしてメラニア氏は、夫が再選を目指して積極的に活動している最中に、中絶に対する自身の立場を明らかにした唯一のファースト・レディーだ。
実際、メラニア氏の発言のタイミングには、政治的な意図がある可能性を示唆していると、ブロウワー氏は述べた。
「選挙の直前に意図的にこのようなことが行われた可能性は否定できない。なぜなら、『ロー対ウェイド』判決が覆されたことに怒っている激戦州の有権者たちにアピールできるからだ」
「そうした有権者はおそらく、トランプ氏が中絶に対して軟化している兆候だと捉えるかもしれない」
しかし、共和党のストラテジスト、リナ・シャー氏は異なる見解を示した。
メラニア氏がトランプ候補を助けようとしているという考え方は、「私たちが知っている彼女とは一致しない」と、シャー氏は述べた。
「現時点では何も変わらないし、メラニア氏もそれを知っている」とシャー氏は言う。「一部の地域ではすでに早期投票が始まっている。もう遅すぎるのだ」。
来月の大統領選では、中絶へのアクセスが重要な争点となる。共和党にとってこの問題は弱点であり、中絶に反対する保守派の支持基盤と、中絶へのアクセスを支持する幅広い有権者層の両方にアピールすることが難しいとされている。
今年の選挙期間中、トランプ候補のこの問題に対する立場は揺れ動いてきた。
トランプ候補は今週初め、可能性は低いものの、もし連邦議会で中絶禁止法が可決された場合には、拒否権を行使するつもりだと初めて述べた。
BBCはトランプ陣営にコメントを求めている。
民主党の候補者であるカマラ・ハリス副大統領は、有権者の関心を高めるために、トランプ氏のこうした姿勢を利用しようとしている。
トランプ候補が大統領時代に判事3人を指名し、連邦最高裁判事の圧倒的多数が保守派となったことで、「ロー対ウェイド」判決が覆された。こうしたことからハリス氏は、トランプ候補を女性の自立に対する脅威として定期的に非難している。
ハリス=ウォルズ陣営のサラフィナ・チティカ報道官はBBCに対し、「アメリカ中の女性にとっては残念なことだが、トランプ夫人の夫は妻の意見に強く反対しており、それが理由で、3人に1人以上のアメリカ人女性が、健康、自由、そして命を脅かすトランプの中絶禁止令のもとで暮らしている」と語った。
(英語記事 Melania Trump is latest Republican First Lady to back abortion