2024年10月5日(土)

BBC News

2024年10月5日

ポール・アダムス外交担当編集委員、トム・ベネット記者 BBCニュース

レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者ハッサン・ナスララ師が暗殺され、イスラエルはレバノンへの地上侵攻を開始し、ヒズボラを支援するイランはイスラエル各地の標的に200発近くの弾道ミサイルを発射した。すべて、この7日間での出来事だ。

アメリカを筆頭とする西側諸国や中東地域の大国は緊張緩和を求めてきた。国連安全保障理事会は敵対行為の「即時停止」を、アメリカやイギリス、ドイツなどの主要7カ国(G7)は「自制」を呼びかけている。

しかしこれまでのところ、こうした努力は失敗に終わっている。そして、中東は全面戦争にかつてないほど近づいている。

この1週間の流れを以下にまとめた。

9月27日夕:ナスララ師暗殺

レバノンの首都ベイルートが夕日に染まるころ、同市南部は一連の大爆発に見舞われた。

いくつかの集合住宅が攻撃を受け、地面には巨大なクレーターが残った。粉じんやがれきが一帯を覆う光景は、ベイルートのどこからでも確認できた。

ナスララ師は暗殺を恐れて何年もの間、公の場に姿を見せていなかった。

イスラエルは9月23日に対ヒズボラ作戦をエスカレートさせたナスララ師の死は、500人以上の死者を出した約1週間におよぶイスラエルの作戦を締めくくるものとなった。

その前の週にはレバノン各地で、ヒズボラのメンバーが使用する、ポケットベル式の小型通信機トランシーバーが相次いで爆発し、少なくとも32人が死亡、3000人以上が負傷した。

ナスララ師が死亡したことで、そのわずか数時間前までは可能だと思われていた緊張緩和への希望は消え去った。

アメリカが提示した21日間の即時停戦案は、米ニューヨークでの国連総会に合わせて議論されていた。イスラエルのダニー・ダノン国連大使は、イスラエルは「提案にはオープンだ」とさえ述べていた。

しかし、この日の攻撃から数時間後、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は訪米期間を短縮し、早朝の便で帰国の途に就いた。これにより、外交的解決の可能性が優勢だとする残りの希望は消えてなくなった。

10月1日未明:イスラエルがレバノン侵攻

ナスララ師暗殺から3日後、イスラエル国防軍(IDF)は国境を越えてレバノンに侵入し、地上侵攻を開始した

IDFは「限定的かつ標的を絞った」作戦だとした。

レバノンの危機対応当局によると、この戦闘でこれまでに120万人近くが家を追われている。また、少なくとも8人のイスラエル兵が死亡している。

イスラエルは作戦について、ロケット弾やドローン(無人機)を使ったヒズボラの越境攻撃を阻止するのが目的だとしている。昨年10月7日のイスラム組織ハマスによるイスラエル奇襲とイスラエルの報復攻撃を受け、ヒズボラは毎日のように対イスラエル攻撃を仕掛けている。ヒズボラとハマスはいずれもイランから支援を受けており、ヒズボラはパレスチナ人に連帯を示すために行動しているとしている。

イスラエルの部隊は今や、同時に2つの前線で地上戦を展開している。パレスチナのガザ地区、そしてレバノンだ。このような事態はここ数十年起きていなかった。

2006年のイスラエルとヒズボラの最後の戦争で、双方は物別れに終わった。戦闘終結時には、ヒズボラの部隊にレバノン南部からの撤退を求める国連安全保障理事会決議1701が可決された。

しかし、それは実現しないまま、ヒズボラはイランの支援を受けて勢力を拡大した。

イスラエルは、ヒズボラをレバノンの政治情勢から完全に排除したいとは言っていない。これはガザ地区のハマスへの対応と同様だ。ただ、「限定的かつ標的を絞った」作戦とは言いつつも、ヒズボラの規模を縮小するという容赦ない決意でいることは明らかだ。

驚くような2週間半で拍車がかかったイスラエルは、野心的な心持ちでいるようだ。

10月1日夕:イランがイスラエル攻撃

現地時間1日午後7時30分ごろ、イランは200発近い弾道ミサイルをイスラエルに撃ち込んだ。約1000万人のイスラエル市民は防空壕に逃げ込んだ。

イスラエルの防空システムが作動したほか、アメリカやイギリスなどの同盟国も迎撃に加わった。紛争の範囲が拡大していることを新たに示す動きだった。

IDFはミサイルの大半は迎撃されたが、少数のミサイルはイスラエル中部と南部に着弾したと発表した。これまでに死亡が報告されているのは、イスラエル占領下のヨルダン川西岸地区のパレスチナ人男性1人のみ。

自分たちの最大の代理勢力が混乱状態にある状態で、イラン政府は、一定の抑止力を回復するため、4月にミサイルとドローンで行った対イスラエル攻撃よりも劇的な何かをする必要があると考えた。

それゆえに、今回の攻撃では事前通告なしに、前回より多くの弾道ミサイルが使用された。

イランの姿勢を誇示する以上の実質的な意味合いのある攻撃ではあったものの、イランが全面戦争を望んでいると示すものではないようだと、そう受け止められた。

これは決して意外ではない。本格的な戦争になれば、負けるのは自分たちで、しかも惨敗することになると、イランは承知している。

イスラム共和国(イラン)の終わりを告げることにさえなりかねないと、イランは分かっているのだ。

一方でイスラエルは、強力な西側の同盟諸国に支持されている。さらに、中東でも一部の近隣諸国はイラン発のミサイル撃墜を助けてくれる。つまりイスラエルは、中東の超大国なのだ。

経済的にぜい弱で、国民に不人気な政府が率いるイランは、イスラエルにはかなわない。衝突が起きた時に、防衛のため駆けつけてくれるような同盟国もいない。

イラン最高指導者のアヤトラ・アリ・ハメネイ師は4日の礼拝で、それなりに強硬な態度をみせた。しかし、これ以上の状況激化に対応する余裕が自分たちにないことを、イランは分かっている。

次に何が起きる?

ヒズボラは壊滅的な損失を被っているにもかからず、レバノンで戦うと誓っている。

イスラエルがレバノンに侵入するのは簡単だ。だが、レバノンからの撤退はそうはいかない。そのことは歴史が示している。

イランのイスラエルへの対応をめぐっては、1日の攻撃以降、中東地域も世界もはらはらして気をもんでいる。

アメリカのジョー・バイデン大統領は、イスラエルが報復の一環としてイランの核施設や石油施設を攻撃するのを思いとどまらせたと話した。

しかし、厳しい対応は避けられないようにみえる。そしてネタニヤフ首相の最近の物言いから察するに、首相は究極的には、イランの政権交代を考えているのかもしれない。

とはいえ、イスラエルの当面の目標はもっと身近なところにある。ガザでの「完全勝利」と、イスラエル北部国境地帯からヒズボラの脅威を排除することを、イスラエルは掲げている。

イスラエルの指導者たちは、自分たちは多くの前線で戦闘中だと指摘する。ネタニヤフ氏は、ガザ、レバノン、ヨルダン川西岸、イエメン、イラン、イラク、そしてシリアの7つだとしている。

過去1年間、これらすべての方向から攻撃されたのは事実だ。イラクとシリアの親イラン勢力は今のところほとんど、イスラエルの脅威にはなっていないが。

全面的な地域戦争にはまだ至っていない。しかし多くの国や組織が、自分は利害関係のある当事者だと感じている。そして、ガザでの戦争は劇的な広がりをみせている。

(英語記事 The week that pushed the Middle East closer to all-out war

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c981nn584pvo


新着記事

»もっと見る