2024年10月17日(木)

BBC News

2024年10月17日

ジェイムズ・ウォーターハウスBBCウクライナ特派員(キーウ)、ローラ・ゴッジ、BBCニュース

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は16日、ウクライナ議会で演説し、ロシアとの戦争を終結させるためにウクライナの立場を強化することを目的とした、長く待ち望まれていた「勝利計画」を公表した。

ゼレンスキー大統領は議会で、2022年2月にロシアがウクライナに全面侵攻したことで始まった戦争を2025年中には終わらせられると語った。

「勝利計画」には、北大西洋条約機構(NATO)加盟への正式な招待や、西側諸国から供与された武器によるロシア領への長距離攻撃の禁止措置の解除、ウクライナ領土と主権の交換の拒否、ロシア西部クルスク州への越境攻撃の継続といった重要な要素が含まれる。

クレムリン(ロシア大統領府)は「勝利計画」を一蹴。ドミトリー・ペスコフ報道官は、ウクライナ政府は「冷静になる」必要があると述べた。

ゼレンスキー氏は議会演説で、中国やイラン、北朝鮮がロシアを支援していることも批判。これらの国を「犯罪者連合」と評した。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領については、「気が狂い」、戦争をすることに躍起になっているとした。

ゼレンスキー氏は17日の欧州連合(EU)首脳会議(サミット)で「勝利計画」を提示する方針だという。

「我々は戦場において、国際関係において、経済において、情報空間において、そして人々の心において、ロシアと戦争状態にある」と、ゼレンスキー氏は議会で述べた。

「勝利計画」の五つの重要項目

ゼレンスキー氏が概説した「勝利計画」は次の五つの項目からなる。

・NATO加盟への招待

・ロシア軍に対するウクライナの防衛強化。これには、ロシア領内への攻撃に友好国から供与された長距離兵器を使用することを友好国に容認してもらうことや、ウクライナ領内に「緩衝地帯」をつくらないようウクライナの軍事作戦をロシア領内で継続することなどが含まれる

・ウクライナ領内に配備された戦略的な非核抑止力によるロシア軍の封じ込め

・ウクライナの重要な天然資源をアメリカとEUが共同で保護し、経済的潜在力を共同利用する

・戦後に限り、欧州全域に駐留する米軍の一部をウクライナ兵に置き替える

ゼレンスキー氏によると、ほかに三つの「追加条項」があるが、これはウクライナのパートナー国とのみ共有するという。

ウクライナの首都キーウでは、BBCの取材に応じた住民のほとんどが「勝利計画」を支持していた。

住民のアナトリーさんは、「自分たちは領土を放棄すべきではない」と語った。そして、NATOに加盟するチャンスがウクライナにまだあることを、友好国からより多くの支援が得られることを望んでいると付け加えた。

ナディアさんは、ウクライナがどのような安全保障を得られるかにかかっていると述べた。

「みんなできるだけ早く戦争を終わらせたいと思っている」と、マリアさんは強調した。

ゼレンスキー氏は9月にアメリカのジョー・バイデン大統領とカマラ・ハリス副大統領、ドナルド・トランプ前大統領に「勝利計画」を提示している。

イギリスやフランス、イタリア、ドイツなどの主要友好国も同計画をすでに提示されたと報じられている。

アメリカの対ウクライナ支援

ゼレンスキー氏は16日夜、バイデン氏に「勝利計画」の要点を伝えた。

また、アメリカが提示した、防空システムや長距離兵器を含む4億2500万ドル(約636億円)の新たなウクライナ防衛支援パッケージについて感謝を述べた。

米ホワイトハウスによると、追加支援パッケージには防空システムや砲撃システム、弾薬、数百台の装甲車など「さまざまな追加能力」が含まれる。

ゼレンスキー氏が提示した「勝利計画」については、「両首脳が次のステップに関する追加協議を行うよう、それぞれのチームに指示した」という。

「勝利計画」をめぐっては米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが先月、米政府関係者の話として、同計画には包括的戦略が欠けており、追加の武器と長距離ミサイルの使用制限解除を再度要求するものに過ぎないことをバイデン政権が懸念していると報じていた。

ウクライナと西側諸国の複数アナリストは、11月に米大統領選を控える中、ホワイトハウスがロシアとのさらなるエスカレーションを避けたいという意向を示したがっていることの表れだと指摘している。

しかし、ゼレンスキー氏の所属政党「国民の奉仕者」のメンバー、オレクサンドル・メレシュコ氏は、トランプ候補が米大統領選で勝利した場合の影響に重きを置いていないとする同党党首の考えを繰り返した。

メレシュコ氏はBBC番組「ニューズアワー」に対し、「次期アメリカ大統領に誰がなろうとも、その人物はアメリカの利益を追及しなければならないし、ウクライナ支援はアメリカの最大の利益になる」と語った。

ウクライナの士気は

ゼレンスキー氏が示す和平の条件は、同氏を取り巻く状況とますます相いれないものになっている。

国会議員らを前に、ゼレンスキー氏は国内で疲弊感が増していることを認めた。「勝利という言葉は一部の人にとっては不快なものとなり、それを達成するのは容易なことではない」と語るゼレンスキー氏の顔には、彼自身の疲労が刻まれていた。

増え続ける死者数や物議を醸す動員法、ウクライナ領に対する終わることのないロシアの攻撃という重圧のもとで、ウクライナ国民の士気は徐々に崩れている。

いかなる和平合意にも、安全保障と引き換えにウクライナが領土で譲歩することが必要とされるだろうとの見方が強まっている。

しかし、戦争の終結に近づくための妥協案が示されたわけではない。それどころか、ゼレンスキー氏は自国の軍事力を強化することでロシアに交渉を迫り、ウクライナの領土で譲歩しないようにしたいとの考えを倍加させた。

前出のメレシュコ氏は、ゼレンスキー氏の演説は領土で譲歩することをほのめかすものではなかったと強調。

また、ロシアではなく友好国の同意があれば、ゼレンスキー氏の広範な計画を実行に移せるとも主張した。

ゼレンスキー氏は公には、依然としてこの戦争を存続可能なものとみている。プーチン氏が自らの立場を強化し続けていると、ゼレンスキー氏は警告した。

天然資源と経済的な可能性という点で、ゼレンスキー氏は自身のビジョンを西側支援国にとっての投資機会だとも考えているようだ。

ゼレンスキー氏は疲弊した自軍が戦い続けることを望んでいる。

ただ、その軍は西側の援助に大きく依存している。「勝利計画」の実行には次期アメリカ大統領の承認が必要になってくる。

NATOのマルク・ルッテ事務総長は、ゼレンスキー氏の計画はウクライナ政府からの「強いシグナル」だと評した。

「とはいえ、ここで私がこの計画全体を支持すると言えるわけではない。それはすこし難しい。我々がもっとよく理解しなければならない問題がたくさんある」

ルッテ氏は「私には、将来的にウクライナが我々(NATO)に加わるという絶対的な確信がある」と付け加えた。

ゼレンスキー氏が議会演説を終えた直後、クレムリンはゼレンスキー氏の「はかない和平案」をこき下ろし、ウクライナ政府は「冷静になる」必要があるとした。

クレムリンのペスコフ報道官は、ウクライナが「自分たちが進めている政策の無益さに気づく」ことが戦争を終わらせる唯一の方法だと述べた。

(英語記事 Zelensky presents 'victory plan' to Ukrainian parliament

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cvgwy0gvkzko


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