2024年10月18日(金)

BBC News

2024年10月18日

イスラエルは17日、パレスチナのイスラム組織ハマスの最高指導者ヤヒヤ・シンワル氏を、ガザ南部でイスラエル軍が殺害したと発表した。

シンワル氏は2017年からガザでハマスを率いてきた。イスラエル、アメリカ、イギリスは同氏を、昨年10月7日のハマス武装集団によるイスラエル襲撃の首謀者だとしてきた。襲撃では約1200人が殺害され、251人が人質に取られた。

イスラエル軍によると、ガザ南部ラファで16日、ハマス幹部が使っているとみられる建物を同軍が襲撃し、戦闘員3人を殺害した。そのうちの1人がシンワル氏だったという。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、「私たちは今日、約束した通りに借りを返した」、「これはガザにおける戦争の終わりではないが、終わりの始まりとなる」と述べた。

イスラエル軍はこれまで、シンワル氏が護身のためイスラエル人の人質を連れて移動しているとしていたが、建物に人質がいた痕跡はなかったという。

ハマスはシンワル氏の殺害についてまだコメントを出していない。後任についても不明。

ハマスをめぐっては、政治部門のトップだったイスマイル・ハニヤ氏が7月、イランの首都テヘランでイスラエル軍の空爆によって殺害された。それを受け、シンワル氏がハマス全体の最高指導者に指名され、ハニヤ氏の役割も引き継いでいた。

ドローンで確認し建物に突入

イスラエル軍のダニエル・ハガリ報道官によると、16日にイスラエル兵が、ハマス戦闘員3人が家から家へと走って移動するのを目撃した。発砲すると3人は二手に分かれ、シンワル氏は一人で建物に入った。

イスラエル軍はドローン(無人機)を使い、いすに座っているシンワル氏を確認。同氏はドローンに向かい、木片を投げつけた。兵士らは建物に突入。シンワル氏と、ベスト、銃、4万シェケル(約160万円)を発見したという。

イスラエル軍のヘルツィ・ハレヴィ参謀総長は、「私たちは彼を追い詰めると言い、その通り追い詰めた。世界は今、彼がいなくなって良い場所になった」と述べた。

イスラエル当局が歯の治療記録と指紋によって遺体の身元特定作業をしたため、シンワル氏の死亡確認には数時間を要した。同氏はイスラエルの刑務所で数十年間収監されていたため、イスラエルは遺伝子のデータももっているとみられる。

死亡が確認されるより先に、インターネットでは、頭部が大きく傷ついたシンワル氏のように見える死体が、がれきの中に横たわっている生々しい画像が出回った。

ネタニヤフ氏「ハマスはもうガザを支配しない」

ネタニヤフ氏は、ガザに残されたままの人質の家族に向け、「皆さんの愛する人たちが、私たちの愛する人たちが全員、家に戻るまで、全力を出し続けていく」と述べた。

ガザ住民に対しては、シンワル氏が「あなたたちの暮らしを破壊した」と主張。「ハマスはもうガザを支配しない」、「これはハマス後の始まりだ。あなたたちガザ住民にとっては、ハマスの暴政からついに自分たちを解放する機会だ」と訴えた。

ネタニヤフ氏はまた、ハマスが武器を捨て、ガザで拘束している人質を返せば、紛争は「明日にも」終結すると述べた。

シンワル氏とは

シンワル氏は1962年、ガザ南部のハン・ユニスで生まれた。19歳のとき、「イスラム主義運動」を理由にイスラエルに逮捕された。同氏は「アブ・イブラヒム」の名で広く知られた。

1980年代後半に創設した「アル・マジュド」が、ハマスの治安機関となる。いわゆる道徳違反に問われた人物や、イスラエルへの協力が疑われる人物を処罰した。

1988年にイスラエルで4回の終身刑を言い渡された。だが2011年、ガザで5年以上にわたりハマスの捕虜となっていたイスラエル兵ギラド・シャリート氏との交換で、イスラエルの刑務所に収監されていた1027人が釈放された際、シンワル氏もその1人となった。

イスラエルのイスラエル・カッツ外相は、シンワル氏の殺害を「軍事的、道徳的に重要な成果」だとした。

ヨアヴ・ガラント国防相は、「シンワルは殴られ、迫害され、逃亡しながら死んだ。指揮官として死んだのではなく、自分のことしか考えていない人間として死んだ」、「これは私たちのすべての敵に対する明確なメッセージだ」と述べた。

アメリカのジョー・バイデン大統領は、ネタニヤフ氏に電話で祝意を伝え、「イスラエル、アメリカ、世界にとって良い日だ」と述べた。

また、「世界のどこにいるテロリストも、正義から逃れられないと改めて」証明したとした。

一方、ハマスに資金、武器、訓練を提供しているイランの国連代表部は、シンワル氏の殺害は「抵抗の精神」の強化につながると「X」に投稿。「パレスチナの解放に向けて彼の道を進む若者や子どもたちにとって、彼は手本となるだろう」とした。

米中央情報局(CIA)の長官を務めたデイヴィッド・ペトレイアス氏は、シンワル氏の死は2012年に殺害されたオサマ・ビン・ラディン容疑者の死よりも「大きい」と、BBCラジオ4で説明。シンワル氏はハマス全体の最高指導者だったことから、「象徴的な意味でも(中略)戦略的な意味でも非常に大きい」と述べた。

イギリス対外情報部(MI6)の長官を2009~2014年に務めたサー・ジョン・ソワーズは、「ネタニヤフは今、ハマスだけでなく(レバノンのイスラム教シーア派組織の)ヒズボラに対しても自分は優位に立っており、(両組織を支援する)イランが劣勢にいると感じている」とBBCラジオ4で指摘。「彼は本能的に、その優位性を押し通すだろう」との見方を示した。

ソワーズ元長官はまた、ネタニヤフ氏は来年1月にアメリカで新大統領が就任する前に、軍事目標の大半を達成しようとするのではないかと述べた。

イギリスのキア・スターマー首相は、同国としてシンワル氏の死を「悼みはしない」とした。そして、ハマスが拘束しているすべての人質の解放と「中東における長期的で持続可能な和平」の実現を求めた。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、シンワル氏死去について、中東の紛争を終結させる「機会」だと述べた。

一方、イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、現在の戦争における「新たな局面」を開くものだとした。

ハマスが運営するガザ保健当局が、今回の紛争でこれまでに4万2500人近くが殺害され、9万9000人以上が負傷したとしている。これらの人数は民間人と戦闘員を区別していない。

ガザでは今も、イスラエル南部から拉致された人質のうち101人が生存しているとみられている。アメリカ人の人質7人の家族は、「手遅れになる前に」連れ戻すため、「すべての関係者が直ちにこの機会を生かさなくてはならない」とする共同声明を出している。

ネタニヤフ氏は、戦争は「困難で、私たちに多大な犠牲が出ている」と認めた一方で、「私たちは今日、私たちに危害を加える者がどうなるかを改めて明らかに示した」と述べた。

(英語記事 Yahya Sinwar, leader of Hamas, killed by Israeli forces

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/czrmdmpn5zmo


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