9月、ゼレンスキーはワシントンで、「勝利の計画(victory plan)」を提示したが、これは彼の立場を軍事的・外交的に強化するよう同盟国を説得し、モスクワを交渉のテーブルに付かせようとするものであった。しかし、彼は二つの鍵となる要求――NATO加盟に向けての前進、およびロシア領内に対する西側提供の長距離ミサイルの使用を米国が認めること――について手ぶらで帰ることになった。
目標が完全勝利かロシアをテーブルに付かせることかにかかわらず、西側の同盟国はウクライナの立場を強化する必要がある。クレムリンが戦闘のコストが高過ぎると感じてのみ、キーウと西側にとって満足が行くかも知れない取引の交渉にクレムリンを応じさせることが出来る。ウクライナの全部または一部が生き残り繁栄することを可能にする如何なる解決も安全の保証を必要とするであろう。
バイデンと欧州の同盟国は可能な限りウクライナを支援すべきである。ウクライナが優位を取り戻すよう助けることは西側の能力の範囲内にあり西側の利益でもある。
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プーチンと交渉するための3つの要素
ゼレンスキーは10月16日、議会で「勝利計画」なるものを説明したが、彼はこれをロシアに交渉のテーブルに付かせるための計画だとしている。国内の雰囲気の変化、米国の先行き不透明な支援など、考え合わせれば際限のない戦争を継続することの困難性を認識していることを示す必要もあったのであろう。しかし、「勝利計画」の中身となると、更なる軍事支援の要請、西側兵器の使用制限の解除、NATO加盟の促進など、従来からの要請をまとめて焼き直したに過ぎないとの懐疑的な見方も強いようである。
他方、ウメロフ(ウクライナ国防相)から「勝利計画」の説明を受けたワシントンポスト紙コラムニストのイグネイシャスは、「ロシアの占領地域をすべて取り返すための軍事計画というよりプーチンに交渉を強いる戦略」だと肯定的に受け取っている。
その鍵となる要素は、第一に、戦争終結後におけるNATO加盟への遅滞なき招待、第二に、「前線を確保し敵を駆逐するための良好な条件を作ること」という意味の防衛、第三に、ウクライナの市民や枢要なインフラに対する攻撃を阻止するための長射程攻撃に関係する抑止だとされている。
いずれにせよ、プーチンがコストに見合わない戦争と思うのでなければ交渉に応ずるはずはないので、その意味で「勝利計画」は基本的に正しいと言うべきであろう。