2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年11月6日

 交渉に持ち込むためには、東部ドンバスにおけるロシア軍の前進を止め前線を安定させることが前提条件となろう。ウメロフの言う二番目の要素はそのことを示唆しているようである。

 しかし、ロシアのドローンによる偵察能力に裏付けられた徘徊弾薬(loitering munition=無人戦闘機の一種)と滑空爆弾の脅威は大きく、このためウクライナ軍は砲を前線から後退を余儀なくされる一方、ロシア軍に砲を前進させ前線背後の軍事目標の攻撃を許すなど、ロシア軍の前進を許すことになっているようである。西側の支援も得て迅速に対抗策を講じ得ないとなれば、兵員と兵器の不足のゆえに、あらゆる地点においてロシア軍の更なる進撃をもはや止められないこととなる危険がある。

西側としての目標

 交渉に臨むに当たっては取引材料ないし梃が必要になる。ウクライナは8月6日にロシアのクルスク州を奇襲して越境侵攻し、一定の領域を占領した。この作戦には三つの目的があったとみられる。

 支援国に戦争の帰趨は決しておらず、ウクライナはいまだ攻勢に出る能力があることを示すこと、ロシア軍の一部をドンバスから引き剥がすこと、交渉に備えて有用な梃として領域を維持することだったが、一番目は成功、二番目は不成功。三番目については、ウクライナが占領地域を維持出来るか明らかでない。その他有用な梃が有り得るような戦況には見えない。

 目下、この社説が論じているようなウクライナを冷戦期の西ドイツに擬した交渉にロシアを応じさせ得る見通しはない。仮に交渉が成立したとしても、その結果は、せいぜい和平合意を欠いた休戦ではないかと思われる。

 以上、交渉による戦争の終結のための環境には程遠いと思わざるを得ないが、上記の社説も末尾で述べている通り、ウクライナが前線を安定化し、交渉上の有効な梃を持ち、強い立場に立ち得るよう、ウクライナを支援することが西側の目標でなければならない。

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