トランプ氏はイランとの対決についても、「核施設をまず攻撃し、それ以外のことはその後に考えたらいい」と明言し、米国の支援がほしいネタニヤフ氏はトランプ氏の復権を心待ちにしていた。ネタニヤフ氏はトランプ氏当選に合わせるように対立してきた政権内穏健派のガラント国防相を解任。これもトランプ政権発足後に向けた布石と受け取られている。
見捨てられるパレスチナ
トランプ氏は中東和平について、歴代米政権が積み上げてきた中立的な調停者の立場を放棄し、完全にイスラエル寄りに政策を転換した。中でも、同氏はテルアビブに置いていた米大使館を係争の聖地エルサレムに移転、同地をイスラエルの永遠の首都として承認した。
エルサレムはイスラム教徒であるパレスチナ人も自分たちの首都と主張してきた歴史があるが、トランプ氏は一気にイスラエル側に傾斜した。イスラエルが占領中のシリア領ゴラン高原もイスラエル領土として承認し、パレスチナ側には「世紀の取引」と称していびつな和平提案を提唱した。
「オスロ合意」で将来のパレスチナ独立国家の予定地とされたパレスチナ自治区ヨルダン川西岸の面積を約30%削り、その代わりに経済援助をするという内容だった。パレスチナ側がこれを拒否し、中東和平交渉は完全にとん挫、絶望感と怒りをためたハマスの奇襲攻撃につながった。
トランプ氏は1期目政権時代、パレスチナ自治政府の主力であるパレスチナ解放機構(PLO)のワシントン事務所を閉鎖し、パレスチナ援助も止めるなどパレスチナ人には厳しい。今回も「ガザで4万2000人以上が犠牲になっていることは気にしないだろう。パレスチナ人を助けても得にならないからだ。見捨てられるのではないか」(ベイルート筋)。
サウジを「アブラハム合意」に
トランプ氏は2020年、娘婿で大統領上級顧問を務めていたクシュナー氏を使って「アブラハム合意」をまとめさせた。同合意はイスラエルと、敵対してきたアラブ諸国との国交を実現するというもので、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、モロッコ、スーダンの4カ国が調印した。これでイスラエルと国交のあるアラブ諸国は6カ国に増えた。
トランプ氏は今もこの合意の拡大を目指しており、その狙いはアラブ世界の盟主にして、最大の富裕国であるサウジだ。イスラエルにとってもサウジとの国交は経済的にも大きく、実現すれば、中東地域での孤立からの歴史的脱却が実現することになる。
サウジを牛耳るムハンマド皇太子とネタニヤフ首相はこれまでに秘密裏に会談したと伝えられており、ハマスの奇襲攻撃の直前までは国交が時間の問題とされていた。国交に対するサウジ側の条件は「イスラエルがパレスチナ国家への道筋を明確に示すこと」だが、パレスチナ国家に反対するネタニヤフ氏がどう譲歩するのかが焦点になっていた。
ハマスが昨年10月7日のタイミングで攻撃に踏み切った最大の理由は両国の国交交渉が大詰めを迎えていたからだ。国交樹立となれば、パレスチナ問題が忘れられてしまいかねない。このため奇襲攻撃に踏み切り、国交をつぶしたというのが有力な見方だ。