2024年11月22日(金)

バイデンのアメリカ

2024年11月8日

 こうしたことから、選挙戦通じ、不人気のバイデン大統領の「たんなる代弁者」としてトランプ陣営の攻撃にさらされ続けた。それが結果的に、最後まで痛手となった。

 敗因について、民主党ストラテジストのジョン・レイニッシュ氏は政治メディア「The Hill」に対し、「ハリス氏は今回のような(準備期間の限られた)きわめて特異な状況下でベストを尽くした。敗因はむしろ、選挙戦からの撤退をもっと早く決断しなかったバイデン大統領にある」と語り、ハリス氏の立場に理解を示した。

 民主党上下両院議員の多くも、「ハリス氏は、主として経済問題の逆風と、支持率40%に低迷したバイデン大統領の犠牲者となった」として弁護に回った。

 また、バイデン大統領の下での急増する移民問題や高騰する物価対策が後手に回り、有権者の不満が高まっていたにもかかわらず、同政権の副大統領であるがゆえに立場上、異なる選挙公約を掲げるわけにもいかなかった点にも同情の余地がある。

 民主党側だけでなく、勝利確定後の共和党陣営の声明によると、「トランプ氏自身も、選挙戦を通じてハリス氏の強さ、プロ意識、粘り強さを認めた」。

4年後のハリスへの期待

 しかし、ハリス氏の戦いは今回で終わったわけではない。

 同氏は、開票結果が判明した翌日の6日午前、黒人大学で知られる首都ワシントンのハワード大学キャンパスで「敗北宣言」を行うとともに、「だが、今回の選挙戦を点火させた戦いをやめるわけではない」と語り、今後も政治活動を続けていく意思を明らかにした。

 ほぼ同時に、ディロン選対本部長も、ともに戦ってきた全米の数百人規模の選挙スタッフ向けに特別メモを送り、「アメリカをトランプ執政がもたらすさまざまなインパクトから守るための戦いは今からスタートする。ハリス氏の戦いは終わったわけではない」と力説した。

 実際に、ハリス氏が4年後目指し再挑戦するかどうか、また、再挑戦したとしても、厳しい民主党予備選を戦い抜けるかどうか、不確定要素が少なくない。しかし、もし、再出馬を正式に決断し、予備選で党候補としての指名を獲得した場合、本選での有権者の期待と支持が今回以上に広がる可能性がある。

 それは、以下のような理由による:

・今回選挙で、トランプ氏が4年間の十分すぎるほどの準備期間をへて返り咲きを果たしたのと同様、ハリス氏の場合も、戦略練り直し、選挙スタッフの慎重な人選、選挙資金対策などについて、じっくり検討する時間的余裕がある。

 具体的に、経済、移民対策、年金、医療問題など有権者に訴える具体的政策について、これまでの民主党政権とは異なる“ハリス色”を前面に押し出すことが可能になる。再出馬すれば、知名度もこれまで以上に高まる。

・ハリス氏は今回の選挙戦を通じ、トランプ氏と比較しても人格的資質、これといったスキャンダルと無縁のクリーンさ、流ちょうな弁舌、恵まれない境遇の人たちに対する理解力、カリフォルニア州検事総長時代から培ってきた執権能力などのポジティブな点がマスコミでも一定の評価を受けてきた。

 6日の「敗北宣言」では、「結果は私たちが求めてきたこととは違った」としてトランプ氏勝利を率直に認めた。さらに、トランプ氏に電話で祝意を伝えた上で「今後は政権移行が平和的に行われるよう協力する」と約束したことも明らかにした。

 前回20年大統領選挙では、トランプ氏は敗北を認めなかったばかりか、米議会における最終選挙結果確定審議妨害のため、過激支持者たちによる議事堂乱入・占拠事件を扇動した罪にまで問われたほか、歴代恒例となって来た政権交代時の大統領就任式への出席まで拒否する史上初の大統領経験者となった。

 その比較においても、ハリス氏が敗北で示した礼節と包容力について、米メディアは好意的に受け止めた。次回選挙に立候補した場合の人物評価につながる可能性もある。


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