子どもを教育する際にも、例えば「キャッチボールをしていて窓ガラスを割ってしまった場合でも、本当のことを言って謝罪をすればきつく叱らないけど、嘘をついたらきつく叱るよ」というふうに伝えるでしょう。子どもたちが正直であれば、これから、どういうことに注意して遊べばよいかを反省できるのであまり心配はいりません。しかし、嘘をつく癖がついてしまっては、その子への教育やその子の健全な成長はとても困難なものになります。
これまでの医療裁判の原告たちは、隠蔽や改ざん等と闘おうとする決意が提訴のきっかけでした。そのことは、弁護士がつくる訴状や、裁判官が書く判決文にはほとんど触れられていませんが、原告本人が裁判の中で提出する陳述書や原告本人の証人尋問調書を読めば一目瞭然です。実際、ばれないようにしたはずのカルテ改ざんが判決の中で認められた事例も多数あります。
被害者達は、子どもを育てるように、医療が健全に育ってほしいと願っています。それは、事故から学び、再発防止につなげていくシステムを医療界に構築してほしいという願いです。
司法が下した判決やマスメディアの報道の中には、「精一杯やっても結果が悪ければ被害者達は訴える。だから医療が崩壊する」というような誤った偏見の流布につながるものも一部でありました。一方で、医療を育てようとする被害者達の思いを理解し、それに寄り添ったものもありました。これからは、社会の健全化を目的とする司法やマスメディアこそが、起こった事故の結果そのものよりも、改ざんや事故隠しなどの隠蔽行為をとがめる価値観を持ち、それに基づく判決や報道を増やしていく必要があると思います。
医療事故調査制度の創設が、正直であることを評価する文化の醸成につながることを願っていますし、そうでなければ意味がないと思っています。
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