2025年1月6日(月)

プーチンのロシア

2024年12月10日

 22年の開戦以降、ロシアに流入する外貨の半分強は、ガスプロムバンク経由だったいう。その経路が遮断されるということで、市場参加者の間に動揺が広がり、投機的な取引も加わって、秋口から進んでいたルーブル安が一気に加速した。これが、11月下旬に生じた事象であった。

功罪両面があるルーブル安

 ルーブルが下落していると聞くと、我々はつい、「プーチンやその取り巻きは大慌てだろうな」と考えたくなる。

 確かに、ルーブル安はロシアの弱さの表れだ。輸入物価の上昇という形で、インフレを亢進させ、国民生活を厳しくする。ちなみに、ロシア国民の消費に占める輸入品の比率は25%程度であり、為替が10%安くなるごとにインフレ率が0.5~0.6%ポイントほど上昇するというデータがある。

 だが、ルーブル安には功罪両面がある。「功」の筆頭に挙げられるのが、ルーブル安は国庫を潤すという事実である。ざっくり言うと、1ドル当たり1ルーブル下落するごとに、1000億ルーブル程度の追加歳入がロシア連邦財政に入ってくると言われている。

 ロシア財務省などは、ルーブルが暴落するような事態は当然避けたいにしても、ルーブル安そのものについては明らかに静観している。欧米日としては、せっかく国際的な圧力でルーブルを下落に追い込んだつもりが、逆にロシア財政に余裕が生じ、プーチンが継戦能力を維持するようなことになったら、何のための制裁か分からなくなってしまう。

 そして、ルーブル安のもう一つの「功」が、輸出促進効果である。実際、11月下旬のルーブル急落局面では、「輸出関連株は買いだ」といった情報がロシアの経済メディアに踊った。

 一般論として言えば、ルーブル安の恩恵を受ける産業部門は、石油・ガス、石炭、鉄鋼、非鉄、農業、肥料といった輸出産業であり、また海運業である。中立的なのが、銀行、電力、テレコムなど。そして、ルーブル安で打撃を被るのが、大手スーパーマーケット、家電量販店など輸入品を多く取り扱う小売業である。

 ただし、現下の特殊な経済情勢ゆえ、すべての輸出企業がルーブル安で大幅増収ということにはなりそうもない。ガスプロムなどは、欧州市場をほぼ失って苦しいところに、巨額の外貨建て有利子負債を抱えており、その負担に苦しんでいる。また、石炭のうち発電などに用いられる一般炭の輸出は、国際市況の低迷で赤字となっており、多少のルーブル安くらいでは事態を好転させられないという。


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