一方、日本人の訪中ビザ免除に対応した措置として、中国人の訪日ビザも緩和が発表された。富裕層向けには従来の5年ではなく10年の観光ビザを新設。団体向けには滞在可能日数を15日から30日に延長するなどを行った。
これにより、今年1月末から始まる春節の大型連休には「日本に行きやすくなった」という中国人の声が大きい。中国のSNSを見ると、とくに日本との関係が深い人々は「とてもうれしい」と書いていた。
富裕層の場合、すでに経営・管理ビザなどを取得して日中を往来している人が多いため、今回の措置により利便性が増すかというと疑問符がつくが、このような措置自体が中国側ではポジティブに受け入れられているということだ。
日本国内での〝懸念〟
1月は前述したトランプ氏の大統領就任というビッグイベントが控えている。米中間の緊張感もあり、中国政府は日本に対して比較的宥和的な態度を取っていることから、中国から日本への旅行客は増加することが予想される。
だが、それに伴い、大きな懸念もある。昨年8月、靖国神社の石柱に中国人が「トイレ」と落書きしたことが問題となった。
12月末、器物損壊と礼拝所不敬の罪に問われた中国籍の男性、姜卓君被告が東京地裁で懲役8カ月の判決を言い渡されたが、同じ事件に関与した同じく中国籍の男2人はすでに中国に帰国しており、警視庁が指名手配している段階だ。在日中国人の間では「許されない行為だ」「恥ずかしい」などの声が上がった。
彼ら2人が再び来日することはないだろうが、訪日ビザが緩和され、中国人の来日のハードルが下がったことにより、今後、日本に観光や短期滞在ビザなどを使ってやってきた中国人による事件や事故が増える可能性は否定できない。
また、筆者が23年の著書『中国人が日本を買う理由』(日経プレミアシリーズ)や、2024年の著書「日本のなかの中国」(日経プレミアシリーズ)でも指摘してきた通り、中国から日本に「潤」(ルン=移住、移民などの意味)する人は今年も引き続き、増えることが予想される。日本への「潤」は「潤日」(ルンリー)と呼ばれ、一定以上の所得がある中国人にとってコロナ禍後のトレンドとなっており、中国の動画アプリなどでさかんに紹介されている。
移民を仲介する業者が多数存在するからで、中国の政治リスクや経済悪化、日常生活のストレスなどから、日本に移住したいと考える人が後を絶たない。だが、彼らの多くは日本との接点は乏しく、日本社会への理解はあまりないのが現状だ。
そのことが日本社会にどのような影響を及ぼすのかはまだわからないが、著書などでも紹介してきた通り、「日本語ができない中国人」が日本に増えることは、あまりよいこととは言えないだろう。また、中国政府側も、中国から出国・海外移住しようとする人を警戒しているともいわれている。