2025年1月15日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年1月14日

 NATOはこれまでこうした攻撃への対応に苦戦している。ドイツ国防省の元参謀長は「ケーブル、パイプライン、エネルギー施設、データセンター等、重要インフラ全てをハイブリッド攻撃から守ることは実際には不可能」と述べている。「我々の敵がハイブリッド戦争を好むのは、それに直接的かつ比例的に対応するのが非常に難しいからだ」とは、カーネギー国際平和財団チヴィス氏の言葉だ。

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制裁回避で起きる緊張

 ロシアとNATOの衝突の火種になりかねないバルト海を注視すべきとの指摘は重要である。ただ本件記事は、①ロシアの「影の船団」、②バルト海における緊張、③ロシアのハイブリッド戦争、という三つの論点をバルト海という共通項で結びつけ、やや分かりにくくなっている。以下、それぞれにつき解説を試みたい。

 22年12月に西側諸国は、ロシア産原油に60ドル/バレルの上限価格を設定し、上限を超える取引の海上輸送および保険を含む関連サービスを禁止した。ロシアは、この制裁を回避すべく、船舶の所有が不透明の古いタンカーを使って原油を輸出し利益を得てきた。

 この「影の船団」を如何に取り締まるかが対ロシア制裁を効果的にする上で重要課題の一つであった。12月16日に欧州連合(EU)理事会は新たに52隻のタンカーに対する入港禁止措置を決定した(これで入港禁止対象は合計79隻)。

 ロシアは対抗して、「影の船団」のタンカーを海軍艦艇で防護するようになった。本件記事で11月26日の事案とされたロシア海軍のコルベット艦はタンカー防護に当たっていたもので、これを監視していたドイツ海軍のフリゲート艦やシーリンクス・ヘリコプターが接近してきたところにロシアが照明弾を発射して緊張が高まった。大事に至らなかったが、今日、制裁を回避しようとするロシアと、制裁を維持しようとする西側が、軍事力による衝突へと発展しかねない事案であった。

 もう一つの論点は、バルト海がロシアとの緊張の高まりの場として浮上する戦略環境である。

 その第一は本件記事にある通り、フィンランドとスウェーデンのNATO加盟で、バルト海沿岸は全てNATO加盟国となり、またロシアの飛び地カリーニングラードも全てNATO加盟国に囲まれることとなった。


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