2025年4月28日(月)

Wedge OPINION

2025年2月6日

日本が理解できていない自らの存在感

 この時、こうしたグローバルな国際的文脈よりも、日米バイラテラルな関係を最優先して、小泉純一郎首相(当時)は一早い米国支持=開戦支持を明らかにした。日本は米英同盟を最優先したが、その意味が良く理解できていなかったのではなかったか。

 翌日当時のパウエル国務長官はブリーフィングの冒頭で「日本よ、ありがとう」と丁寧な謝意を表した。それほど米国は国際社会での孤立の懸念を大きくしていたのだ。日本が米国支持を出したことによってそれまでイラク攻撃に反対していた韓国・インドネシア・ベトナムなどの東南アジア諸国が米国支持に傾いた。アジアでは中露の不支持はもちろん多くの諸国がイラク戦争反対だったからである。

 日本では米国の親近感の強化だけが評価として語られていたようだが、実は米国のアジアの同盟国としてまとめ役を果たした。そのことを日本は自分自身理解できていなかった(拙書参照)。

 日本が自らの存在感を理解していない状況は、残念なことに今日も続いている。正確にはそれに気が付いたアメリカの方がむしろ日本との距離をさらに詰める対日外交を展開してきたのではなかったか。しかしその真意に気が付かない日本外交はますます行動の自由を失っていた。もし当時自らの存在感にもっと自覚的であれば、その後の日米同盟関係における日本外交の立ち位置も違ってきたであろうし、世界の中での存在感も違っていたかもしれない。それを期待した国もあった。

中国を間に挟んだ米・欧関係

 しかし時計の針は回って20年以上が経った。世界の構造が大きく変容している。多極化世界への大きな前進だ。ユニラテラリズムとマルチラテラリズムの対抗軸の中に中国とロシア、そしてグローバル・サウスと呼ばれる諸国の動静が無視できなくなっているのだ。

 トランプ大統領のEUに対する経済圧力は単にEUとのバイラテラルな関係にとどまらない。その背景には中国に対する警戒心がある。中国への牽制策と表裏一体となった対欧政策だ。

 すでにトランプ第一次政権の時代、E U加盟国が中国通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)を5Gネットワークに含めたなら、米国はEUとの情報共有を制限すると警告した。第二期政権では、たとえば中国製の部品を含むEU製品の輸入を拒否することもありうる。とくに安全保障上の理由から、中国で製造されたセンサーやバッテリーに依存しているヨーロッパの電気自動車の輸入を停止する可能性が高い。

 EUの技術輸出に対する米国の規制は、半導体にとどまらない。米国は、ウェハーから光学機器に至るまで、より広範なEU産品の中国への輸出規制を強化したり、阻止しようとするだろう。EUの対中投資審査を厳格化し、対外投資審査メカニズムを導入し、知識セキュリティ政策を強化することを望むだろう。またEU市場における中国のダンピング行為に対抗した政策も考慮するだろう。

 それは中国との貿易関係を間に挟んだ米欧関係の構図だ。欧州は米中対立には巻き込まれたくない、むしろステークホルダーとしてバランスを取ろうとしてきたし、今後もその路線を変えることはないだろう。


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