2025年3月23日(日)

Wedge OPINION

2025年2月6日

 第二次トランプ政権は、就任初日から40以上の大統領令に署名し、1月末から立て続けに関税引き上げを発表した。「アメリカ第一主義」「自国優先主義」が明らかなのだが、それは米国にとっても両刃の剣となり得る。かつて筆者が現地ワシントンDCで体験したようにイラク戦争前の「米国の孤立」につながるからだ。その先には米国の独走(ユニラテラリズム)か、「混乱」か、さもなくば「妥協」・「合意」の道しかない。

 トランプ大統領の常套句「ディール(取引)」とはこの混乱の後の合意という意味だと筆者は日ごろから見ている。したがって、その自国優先主義は一つのツールでもある。世界が第一期トランプ政権を通して学んだことだ。

トランプ大統領の「ディール」に会談を控えた石破首相は対策を練っているのか(つのだよしお/アフロ)

 欧州は冷静かつ慎重に対応しようとしている。トランプ第一期政権で決まり文句となった「ディール」は第二期政権の外交にも生きている。「目には目を」「ディールにはディールで」――どのようにして相手主体のディールを自分主体のディールにしていくのか。ポイントはそこにある。世界はトランプのディールに備えようとしているように思える。

 これに対し、2月7日にトランプ大統領と会談する石破茂首相はどう見ているのか。米国のもう一つの同盟諸国群である欧州を参考にしながら、グローバルな視点を前提にどのようにして「ディール」の相手となりうるのか。

冷静なEUの戦略

 欧州連合(EU)首脳・加盟諸国はトランプ第二次政権誕生の直後には歓迎の意を示し、その後も冷静な対応に終始している。フォンデアライエン欧州委員会委員長は、現在までトランプ大統領と直接会っていない。

 1月21日のダボス会議の開会式で、彼女は挨拶したが、かつてないメッセージ「私たちはプラグマティズムの姿勢で行きましょう」と宣言した。「私たちのプライオリティは、早急に対話を行い、私たちの共通の利益とは何かを検討し、交渉を準備することにあります」と述べた。

 第一次トランプ政権時代に関税戦争となったEUも不安を隠せないことは確かだ。大統領就任演説でトランプはヨーロッパへの言及すらしなかったが、直後の記者会見では米欧間の貿易の不均衡への不満を露わにした。

 フォンデライエンが強調したのは、「欧州は自分たちが長年付き合ってきた友人との協力だけではなく、共通利益を持つならどんな国とも協力」するということだった。フォンデライエンはダボスの演説で、欧州極右にも、トランプの名前についても言及せず、伝統的な大西洋関係への賛辞を惜しまなかった。

 ウクライナについても触れなかった。その代わり、ヨーロッパは「グローバル・エコノミック・プレイヤー」であること、したがって南アフリカ、中国、インドなどとの交流も活発に行っていくと言明したのである。いわばマルチラテラル(多国間主義)の対応ということだ。


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