こうした中国の欧州進出を米国への脅威と重ねてみる見方は、EUの米国との摩擦を増やすものともなるが、他方でEUとしては中国がダンピングや知的所有権、あるいは米欧型市場原理を侵す経済活動を続けるのを阻止するための米欧協力の絆も強めたい。EUは、「ステークホルダー」として中国との関係を慎重に発展させていきつつ、対米関係を均衡させていかねばならない。
米欧中経済大国の三竦(さんすく)みの関係だ。これをジレンマの構造にとどめておきたくない。欧州の隘路の選択であり、苦衷だ。
日米首脳会談は関税交渉だけが目的ではない
二つの普遍主義の競争、多極化と新たなアクターを交えて世界秩序はいずれにせよ、グローバルに連動し、共働する時代に入っている。そんな中で日米同盟をバイラテラルな関係だけで発想し、自分だけよければよいというわけにはいかない。
それは日本のような本来アジアで大きな影響力を持つべき国のとるべき外交ではない。広い国際見識に支えられた外交による貢献こそ真に国際的評価を得るものだからである。
もちろん外務省はメディアの反中の潮流の向こうで対中関係の絆にも配慮してきていた。習近平の訪日計画は幾度も出ては消えを繰り返している。しかし国内の外交議論は親米一辺倒に振り回されている。バランスをとった議論が必要だ。
石破首相訪米の第一の課題は関税交渉で、もちろんそれが当座の喫緊の課題であることは確かだが、日米関係で日本だけ特別に高関税を免除されるということに果たして本当のポイントはあるだろうか。
それ以上に関税戦争が世界と米国にとって好ましくなく、MAGA(偉大なアメリカの回復)にはつながらないということをどのようにしてトランプに説くのか。また平和国家としてガザとウクライナ紛争の解決やそのほかのグローバルなイシューでの積極的姿勢を示すことによって、真の意味でのグローバルプレイヤーとして見識を表明することで石破首相のトランプ大統領に対する株も上がるのではないか。
首相には「見識外交」の発信を世界に向けて行うことに期待する。