2025年4月24日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年2月17日

 国内需要は増加しているが、生産制限のため、ロシア経済はこの需要を満たすことができず、輸入への依存度が高まっている。外貨需要の高まりでルーブルが下落し、賃金上昇と相俟ってインフレを引き起こしている。

 それでも、プーチンは短期的には戦争による経済的影響をうまく処理できるかもしれないが、26年までにロシアの経済モデルの限界は無視できなくなるだろう。その間、戦争主導経済のコストは増大し、構造的問題を悪化させ、ロシアを清算へと向かわせるだろう。

 しかし、その清算が訪れるまで、経済問題が大統領に戦争継続を求める勢力に打ち勝つ可能性は低い。ウクライナの主権を奪うという、プーチンの最終的な目標は変わらない。

 ロシア経済の差し迫った崩壊を当てにできないのであれば、ロシアが今後 1 年以上にわたって大きな脅威となるという現実に直面しなければならない。米欧は、この危機的な時期を通じてウクライナを支える必要があり、協力して制裁を強化し、米国の政策の潜在的な変化や欧州内の亀裂を管理する方法を見つける必要がある。

 最終的には、ロシアの戦争経済の累積的なコストが支払われなければならなくなるだろう。西側諸国は、経済崩壊がプーチンにとって緊急かつ避けられない現実になったときにチャンスを活かすべく、今から備える必要がある。ただし、ウクライナの支援者は、その瞬間がすぐに来ることを期待すべきではない。

*   *   *

 ウクライナ戦争の終結は、「力の要素」なしに考えることはできない。「力の要素」の第一は軍事力であるが、戦況は総じてロシア側に有利に推移している。第二は経済で、上記の論文はこの部分を扱っている。

 この論文の論旨には、ほぼ全面的に賛同できる。この要素が戦争終結に向けたプーチンの行動に実質的な影響を与えるまでには、なお時間を要するであろう。

 ただし、第三の要素として、地政学的な戦略環境の問題がある。今日ロシアは、①北大西洋条約機構(NATO)による本格的な東翼防衛の強化、②核シェアリングの強化と新たなミサイル等の配備、③艦隊の海洋行動における制約、の3点において戦略的な劣勢に向かっているとみられる。

 具体的には以下のとおりである。今後あり得る和平交渉においては、この点をも梃として、プーチンに妥協を迫ることが重要である。

NATOによる東翼防衛の強化

 ロシアによるウクライナ侵攻をうけたNATOの対応は多岐にわたるが、直接的な戦闘への発展のリスクを伴うものとして、新たな部隊の編成による東翼防衛の強化がある。

 NATOはロシアがクリミアを「併合」した14年、バルト三国や中東欧地域の防衛のため、2~7日のうちに展開できる「高度即応統合タスクフォース」(VJTF)を創設した。

 さらに、22年のロシアによるウクライナへの全面侵攻は、NATOに対しより迅速かつ大規模な部隊展開の必要性を強く認識させ、数時間から数日で展開可能な部隊としての「緊急展開部隊」(NRRF)を総勢30万人規模で創設することが決定された。


新着記事

»もっと見る