2025年4月4日(金)

特集:食料危機の正体

2025年2月28日

 もう一つは、欧州連合(EU)の食品衛生管理規格である「EUHACCP」の認可を得ることだ。動物性たんぱくの輸出基準が厳しく、原料のトレーサビリティーも求められる。ならば現地に工場をつくってしまえばいいではないかと思いきや、そう簡単ではないという。

 「工場の設備投資にお金がかかる。また、駅弁には『揚げる・蒸す・焼く・煮る』という技術が詰まっており、外国人が細々と作業するのは難しい。しかもヨーロッパは硬水のため日本のコメをおいしく炊けない。トータルで考えると、冷凍輸出が得策だ」(松浦氏)

 将来は「EKIBEN」を世界共通言語にすることが目標だ。松浦氏は「欧州には鉄道で食事を楽しむ文化はない。車内でもサンドイッチなどの軽食で空腹を満たす程度だ。駅弁を通じて、日本の食文化を世界に広めていきたい」と意気込む。

古くて新しい乾田直播で
日本の稲作に革命を起こす

 個々の企業が加工品としての輸出を強化するのは歓迎されるべきだが、輸出のボリュームを確保していくうえでは難しい。そうした中、コモディティーとしてコメ輸出を拡大させようという動きもある。

 110ヘクタールで稲作を行うヤマザキライス(埼玉県杉戸町)は、「最小限の設備投資で収益を最大化する経営」を行っている。所有している機械は、田植え機1台、ロボットコンバイン1台、自動操舵のトラクター2台の計4台のみ。同規模の面積を耕作する農家と比較すると、3分の1程度の設備規模だ。また、衛星写真を分析し、ドローンと連携させて必要な箇所に必要な分の肥料や除草剤を散布する「ザルビオ」というシステムを導入し、徹底的なデータ化・見える化を進めている。

 24年度の水稲の生産コストは1キロ・グラムあたり120円、1俵(60キロ・グラム)で7200円。日本の平均の1万5948円を大きく下回る。

 同社が23年より取り組んでいるのが「節水型乾田直播水稲栽培(DDSR:Dry Direct Seeding Rice)」だ。これは、水を張っていない乾いた田んぼに、直接種もみを播き、必要最小限の水だけを供給する栽培方法だ。田んぼに湛水しないため、耕起や播種、育苗、代掻き、田植え、水位の管理といった、農家の負担になっている作業を省略できる。

 ただ、乾田直播は決して新しい技術ではない。ヤマザキライス社長の山﨑能央氏は「雑草や発芽・出芽の管理が難しいこと、連作障害や雑草稲の発生懸念など、乾田直播には技術的に実現が難しいという固定観念がある。もちろん、デメリットは織り込み済みだ。しかし、それを解決できる可能性の高い技術が次々に登場している」と話す。

ヤマザキライスの山﨑さん。所有している機械は同規模の面積を耕作する農家と比較しても小規模だ(WEDGE)

 山﨑氏が「最大のブレークスルー」と話すのが、バイオスティミュラント(BS:生物刺激剤)の登場だ。BSとは、植物の免疫系を活性化することで植物が本来持っている能力を引き出す農業資材で、農作物の収量増加や品質向上などが期待されている。

 同社は、種もみにビール酵母と菌根菌というBSをまぶすことで、種の発根力と干ばつ耐性が強くなった。従来年間70日間費やしていた水管理は、24年は5回程度で済み、雑草もザルビオを利用することで効果的に防除できた。その結果、4~7月中旬の整備機械コストは60%、投下労働時間は70%削減できた。

 収量も品質も合格点だ。24年、「にじのきらめき」という品種では10アールあたりの収量(単収)は9.2俵、「ほしじるし」は8.5俵と、いずれも全国平均並みだ。コメの等級検査員が「高温障害の多い埼玉県内で今年一番美しいコメだ」と称賛したほどだったという。

 とはいえ、全てがバラ色というわけではない。SNS上では、「乾田直播に失敗した」という投稿も目立つ。山﨑氏は「BSは『播いておけばOK』という〝魔法の薬〟ではないし、農家の技術力も必要だ。連作障害や雑草イネの繁殖といった課題は残っているが、BSなどの新興技術で対応できる見込みがある。世界では様々なBSの開発競争が行われている。農業にパラダイムシフトが起こることは間違いない」と語る。


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