2025年3月28日(金)

日本の漁業 こうすれば復活できる

2025年2月21日

 現在の水産資源管理のルールである資源管理基本方針を定める場合、農林水産大臣は水産政策審議会の意見を聴かなければならない(漁業法11条3項)。目標達成期限の「無限後倒し」が可能となる今回の重要な改訂を討議した同審議会においては「規制の緩和が行われることに危機感を覚える。10年超えを許す改訂の文言が数値基準もなく曖昧だ。資源保護とは乖離している」といった批判の声が上がった。

 この審議会ではブリの漁獲枠も議題とされたが、緩い管理の設定についてはこれを捕る定置網漁業者からも強い批判の声が出た。しかしながら、審議会のメンバーの多くは漁業者団体代表で、こうした批判は「柔軟な管理が必要だ」といった他の声にかき消されてしまった。そもそもこの審議会で諮問された事項で了承されなかったものはほとんど存在しないし、そもそも農水大臣は審議会の意見を「聴く」だけで足りることになっている。

下位ルールによって歪められた改正漁業法の主旨

 漁業法の改正は、右肩下がり一方の我が国の水産資源に対し、科学的な資源管理の下で水産資源の持続可能な利用と図ることを意図したものであった。そこでカギとなったのが、MSYという概念を用いて持続可能な水準の漁獲枠の設定を行う、という点であった。また、資源管理の目標に関して、資源再建計画および限界ラインの値は「資源水準の低下によって最大持続生産量(筆者注:目標ラインであるMSYのこと)の実現が著しく困難になることを未然に防止するため」のものであると漁業法は明記している(第12条)

 MSY概念に基づいて設定された資源管理のための目標の達成期限を、「漁業者の経営もあるから」という如何様にも解釈できる曖昧な基準でどこまでも後倒しにできてしまうのであれば、改正漁業法で目指された基本的な事柄が骨抜きとなってしまうと言えはしないか。無限の後倒しを可能にすることが「資源水準の低下によってMSYの実現が著しく困難になることを未然に防ぐ」ことになると言えるのであろうか。

 資源管理に関する具体的ルールを定める資源管理基本方針は、「農林水産省告示」というカテゴリーに属する。「告示」は憲法や法律はもとより、政令や省令よりも下位のルールとなる。「告示」中の文言をいじって上位規範かつ国会での議決を要する法律中に規定されている骨格となる事項を無にしてしまいかねないことが、許容されるべきか甚だ疑問である。

スルメイカの愚を繰り返さぬために

 スルメイカの資源減少は、乱獲の他に近年の温暖化など環境要因も当然考えられる。ただし、温暖化の進行は一方通行的で、元に戻ることはない。また、水研機構の資源評価でも指摘されているように「資源の減少に伴い、漁獲による資源への影響が大きくなる可能性」がある。

加えて、スルメイカは単年生であり、1 年で成長・成熟し、産卵後に死亡する。このため、孵化して生き残る子供の量の多寡に関する予測の誤差が、そのまま漁獲対象資源全体の予測誤差となる。このことから「漁獲管理に際しては、こうした資源評価の不確実性を十分考慮することが重要」と資源評価を行った水研機構の科学者たちは強調している。

 科学的知見が不確実な場合に関しては「予防的アプローチ」の適用が世界で一般的な基準となっている。国連食糧農業機関(FAO)「責任ある漁業のための行動規範」および国連公海漁業協定では、水産資源の保全管理に関して予防的アプローチの適用と、十分な科学的知見の欠如を保全管理措置実施の採用の延期または不履行の理由としてはならないことを求めている。また公海漁業協定では、情報が不確実、不正確な場合には一層の注意を払うべきとしている(行動規範7.5.1及び公海漁業協定第6条2項)。


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