元タレント・中居正広氏の女性トラブルに端を発したフジテレビの混乱は、収まりそうもない。トラブルに遭われた女性に対して、心からお見舞い申し上げ、一日も早くご心痛が和らぎますようお祈り申し上げます。
さて、一人の女性の悲劇の報せと同時期に、NHKでは大河ドラマ『べらぼう』が始まり、話題を集めている。
舞台は、江戸・吉原である。このドラマは、決して吉原文化を称揚するために作られたわけではないであろうことは容易に想像できる。ただ、ここがかつて遊女たちの悲惨、あるいは、様々な運命の場所であった事実は、ドラマではなかなか描けない。
吉原遊郭には、自ら望んでこの世界に入ったわけではない人が多いのではないか。そして、女性たちの多くは、性感染症にかかって若くして亡くなっていったのである。
「投込寺」として知られる南千住浄閑寺の過去帳等の情報から推測すれば、遊女の死亡時年齢は22歳前後であったとされる。中居氏をめぐる一人の女性の被害の背後で、こうした名もなき無数の遊女たちの存在を忘れてはならないだろう。
筆者は歴史学者でも、民俗学者でもなく、一介の医師である。そのため、こうしたことを述べることに対して、批判があるのは覚悟の上だが、敢えて世の中に問いたいと考え、筆を執った。
すでに、インターネット上では吉原の真実を語る記事が散見される。もちろん、それらの情報には真偽はあるだろう。ただ、日曜日のプライムタイム、家族でテレビを囲む時間帯に、子供たちから純粋な思いから「あのきれいなお着物着てみたい」「吉原とはどういうところだったの?」などと問われて、説明に困り、困惑する親たちもいるのではないだろうか。まして、中居氏トラブル、フジテレビ問題で日本中が湧きたっている時期である。
民放のワイドショーでは、連日のように、芸能界の悪しき慣行を断罪する。その一方で、NHKでは、日曜午後8時に、吉原を舞台とした大河ドラマが放映される――。
この矛盾を、大人は子どもたちにどう説明したらいいのか。様々な意見があるだろうが、筆者には自信を持って子どもたちを納得させるような説明ができず、どうしても違和感を覚えてしまうのである。