2025年12月5日(金)

医療神話の終焉―メンタルクリニックの現場から

2025年2月22日

歴史を振り返る

 繰り返しになるが、筆者は歴史学者でも、民俗学者でもない。そのため専門的な情報にアクセスできず、史実を正確に把握することは困難である。しかし、ある程度のことは、『平凡社世界大百科事典』や民族学者の宮本常一らが書いた『日本残酷物語』(平凡社ライブラリー)、『江戸東京の明治維新』(横山百合子著、岩波新書)などの一般向けの文献などでも察することができる。

 江戸時代や明治時代のこの国において、貧しい小作農が口減らしのために子どもを売ることは珍しくなかった。NHK連続テレビ小説の不朽の名作『おしん』では、口入屋の仲介で奉公に出されることになったおしんが、母と別れて、最上川を筏(いかだ)で去っていく場面がある。ドラマでは材木問屋に行くという設定だが、あのシーンで連想させる行き先は、一般には遊郭であり、仲介者はただの口入屋ではなく、女衒ではないだろうか。

 女の子だけでなく、男の子もまた、10歳前後で売られていったという。

 行き先が江戸のような都市であれば、それは商家の丁稚や寺院の寺男として最底辺の雑用係として働かされるか、人足として土木や建築などの危険な仕事に従事させられた。鉱山・炭鉱であれば、佐渡金山、足尾銅山、生野銀山、別子銅山、筑豊炭鉱など、危険な場所にも入らされた。

 男娼を意味する「陰間」は、元来は、歌舞伎における舞台に立つ前の年少の役者を意味した。中居氏の所属先であった旧ジャニーズ事務所では、年端もいかぬ男の子が被害者なったが、この点は、江戸時代の若衆歌舞伎の慣行の延長に位置付けられるかもしれない。

 吉原のような性被害の問題は、性差別の問題ではなく、むしろ、男女を問わない児童虐待の問題である。

 その点は、今回加害者側に回った中居氏がかつて所属していた旧ジャニーズ事務所の事件を思い起こせば理解しやすい。そこで犠牲になったのは、大人でもなければ、女性でもない。世間の怖さなど知らないはずの、男の子だったのである。

花魁と歌舞伎役者の恋愛文化

 吉原遊郭が歌舞伎と結びついて、江戸の恋愛文化を作ったことも確かである。花魁も歌舞伎役者も男女の機微を扱うプロであり、たがいに芸の一環として恋愛遊戯に興じた。女形は、遊女との関係を通して、女性らしい所作や話し方を学んだという。

 江戸の町人文化では、遊女との関係は不貞とはみなされず、一種の芸術活動と見なされた。タレントの石田純一氏はかつて「不倫が文化を作る」と述べたが、実際、吉原文化、歌舞伎文化には、その言葉は当てはまるのではないだろうか。

 遊女の履歴は、後年の帰郷を困難にする。早世しなかった元遊女は物乞いでしのぐしかなかったという。


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