まさに苦渋の選択である。そうしたウクライナの弱みが分かっているだけに、トランプはウクライナを無視して戦争終結に動いているのであろう。
日本の安全保障への影響
仮にロシア・ウクライナ戦争がロシアの満足する形で終結するとすれば、それは日本にとってどのような意味を持つのか。最大の問題は、武力行使による(実質的な)領土変更という悪い前例を残すことになることである。
岩屋毅外相が先のミュンヘン安全保障会議において「侵攻を正しく終わらせなければ中国のみならず世界に誤ったメッセージを発することにつながる。ロシアが勝者になる形で終わらせてはいけない」と述べたのはこうした考慮に基づくものであろう。岸田文雄前首相が「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と強調し続けてきたのも同様の懸念からである。また、今後のウクライナの安全保障についての仕組みが弱ければ、ロシアの再侵略の可能性も残すことともなる。
一方、ロシア・ウクライナ戦争が終結することは、東アジアの安全保障環境、米軍の戦略態勢に変化をもたらす。現在、ウクライナに振り向けられている米国の国防上の資源、エネルギーを他地域に振り向けることができるようになる。
中国への対抗を念頭に、東アジアはその主要な振り向け先になると考えて良いだろう。トランプ政権の安全保障チームの考慮の一つにはその観点があろう。日本として声高に語るべきことではないが、日本の安全保障にとってのプラス面となる。
ただ、ここで取り上げた解説記事が示すように、米露両国が話し合っているのは、単にこの戦争をどのように終結させるかだけではない。米露関係のリセット、正常化であり、米国企業のロシアでのビジネスの再開が視野に入れられている。
トランプはロシアを主要7カ国(G7)の枠組みに復帰させるべきとの考えを示し、米国はロシアの侵略非難を含まない安保理決議を提出、成立させた。これらの動きは、国際秩序のあり方がひっくり返ることを意味する。
