2025年3月26日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年3月11日

 ② 防空システム:欧州軍は防空態勢をポーランドやルーマニアに配備されたイージス・システムや米国のパトリオット、THAAD等に大きく依存し、これらの支援なしにはロシアが超極音速ミサイルと称するキンジャールはもちろん、イスカンデル・ミサイルにも対処困難となろう。

 ③輸送その他の兵站装備:欧州軍は部隊運用に不可欠となる大型輸送機等の輸送能力を基本的に米国のC-17等に依存し、これらの支援なしには大規模な戦闘を継続することができない。

 ④軍事産業の生産能力:ウクライナへの武器支援で明らかになったように、欧州各国の兵器生産能力は現時点では持続的な全面戦争を戦うために必要な水準に達しておらず、これを引き上げるには何年も時間と資金を要する。

 ⑤核抑止力:欧州の核保有国たる英仏両国が保有するのは戦略核のみで、戦場での使用を想定した戦術核を保有せず、ロシアとの核戦争を想定した場合には運用の柔軟性を欠く。加えて特にフランスについては自国の核を欧州全体に対する拡大抑止のためと位置付けるべきかの政治判断が必要となる。

米国にとってもデメリットも

 他方、在欧米軍の削減はその規模や態様によっては米国の国益をも棄損するものとなりかねない。在欧米軍の削減がもたらす最大の問題は、大西洋同盟の結束の低下を示すものと映り、ロシアの長年の戦略である「米欧デカップリング」が成就する環境を作り出し、さらに中国の影響力浸透にも利用されることである。既にその兆候が見られる。

 また、在欧米軍は欧州の安全保障のためだけにある訳ではない。在独、在伊、在英米軍は米国の中東、アフリカにおける作戦支援のために不可欠であり、これらを削減することは同地域に対するロシアや中国の影響力の増大に繋がる。

 さらに、ウクライナの戦争を経て欧州における緊張はむしろ高まっているにも関わらず米軍が部分的であれ撤退することは、アジアをはじめとする他の米同盟国の米国に対する信頼性の低下に繋がり、国によっては核保有へのインセンティブを一層高めることになるだろう。

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